木陰
君は、夜の木陰が好きだ。
満月の影は、あまりにはげしいので苦手だから、
十日月くらいがちょうどいい。
すうっと、晴れ渡る、夜の暗い空から、
月の光が、程よく降り注いできて、
木の一本を包み、暗がりに影を落とす。
君は、葉の間から微弱にきらめく、
弱い月明かりを、見上げている。
真っ白な肌が、白樺の梢に溶けてしまいそう。
はためくスカートは、そのまま、雲ひとつない夜空に飛び立ってしまいそう。
ざあ、と風が吹いてきて、木の葉をたっぷりと揺らす。
揺れるたびに、月の影が、微かに動いている。
木陰の中で、君は、ただ、月のある方角を見つめている。
晴れ渡る夜の話だ。
十日月の夜の話だ。
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