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ネオン

 振り向く君の横顔が、

 透明のビニール傘越しに見える。

 一歩、歩くごとに揺れる雑踏の景色。

 揺れ動くのは、夜の街の匂いに当てられた人々と、

 甘く、あでやかなネオン。

 それらは、

 ゆったりと幕を下ろす、ひかめな雨に乱反射して、

 万華鏡の模様のように見える。


 頬を膨らます君。

「どうしてくれるの」

 云い訳をするわたし。

「だって仕方がないじゃないか」

「仕方なくないよ、あなたの所為でしょ」

 わたしが雨女であることは、重々承知のはずなのに。

 君は、

 こんな日に限って
 ――手ぶらがいいという理由で傘も持たずに――
 高い服を着てくる。

 すでに肩はひどく濡れてしまい、足元のプリーツは、見てわかるほどに、跳ね返った雨に濡れている。

 美容院で整えたという、新しい髪型は、しっとりと崩れてしまっている。

 それはそれで色気があって好きだ、

 というのは失言だったらしく、傘を買ってやって少し萎んだ君の頬を、

 またもとに戻してしまった。

「そんなに自分の非を認めたくないなら、傘くらい持ってくれば」

「まあ、そうだよね」

 君のゆいいつまともな意見だ。

「わざと持ってきていないって云ったら?」

 なぜか腹が立ったので、仕返しで云ったら。

「ふうん」

 と満足そうに、息を吐いた。

「じゃあ、風邪を引かせないように、早めにタクシーでも拾って」

 滑り込んできた車両に乗り込むと、君が云った。

「服と髪のことはこれで相殺してあげる。だってどうせ乱す予定だったんでしょ?」

 流れていくネオンの、あざやかな車窓。

 それを背景として、手懐けてしまう君。

「どっちも綺麗だったよ」

「過去形」

 絵画のように映える君が云う。

Kise Iruka text 100;
Night city centre.

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