見出し画像

停留

 見上げる青空に、雲がいくつか、流れている。

 風が強く、君の髪も、波のように流れている。

 ざあ、と、木々がたなびく音。

 君が、古い腕時計に、顔をしかめる。

「また止まった」

 君は右利きだけれど、右手に腕時計をする。

 左手の指で、軽く、筐体を叩いている。

 時を操る時計でさえ、時の流れには逆らえないんだな、

 と、少しおかしくなる。

 この葉が舞うままに、留まっていて、

 木々も、雲も、風の向かうままに、

 固定されている。

 一切の音がしない、しん、と張り詰めた、時間。

 止まった時間の中に、君とわたしだけがいる。

「突然止まるんじゃ、仕方ない」

 と、君はいつも、偶発な時間停止を嫌うが、

 わたしは、こうして、思わぬタイミングで、

 準備もなく、予見もなく、

 突如として訪れる、二人だけの空間が、

 いつも、とても居心地よく感じている。

 わたしだけだけれど。

 そう、思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?