記憶媒体
電話が鳴ったので、反射的に受話器をとった。
そこには男の声があった。
「おまえの、PCを預かった。ハードディスクを返して欲しくば、二丁目の橋の上まで来い」
「え、ハードディスクしか返してくれないんですか」
「それで十分ではないか」
「まあ……なくなるよりは返ってきたほうがいいですけど……」
「よし、では半時間後に集合だ」
そう云って電話は一方的に切られた。
そういえば――身代金とか、そう云った類のものを一切要求されなかったが、さてはて、どういう了見なのだろうか。
三十分後、橋に行けば、君がいた。
ボイスチェンジャーを使って、電話をかけてきたとのことだった。
「はい、HDD」
「ちなみに、そのパソコンに載っている記憶媒体は、ソリッドステートドライブだよ」
「SSD」
「そう、SSD」
「ふーん、そっか」
「そうだよ……」
君は、こともなげに、PCもわたしに返還する。
何がしたかったんだ……。
「これで、君は記憶媒体に対して、非社会的な記憶を埋めつけられたことになる」
「非社会的ではないでしょ」
「反社でないだけマシ」
「それもそうか」
わたしが、返ってきたPCを家に持って返って、起動すると、
先日の君とのデートの写真が大量に入っていた。
それを移したかったのなら、USBとかSDカードでくれればよかったのに。
変な人だ。
まあ……、こうして、わたしの記憶野という記憶媒体には、多大な色濃い影響を及ぼしたので、
もう忘れられない出来事の一つにはなるだろうな。
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