羽毛
翼が生えた。
まさに、天使のような、純白で、ふわふわと気持ちの良さそうな、羽毛だ。
行きたかった場所がたくさんある。
さっと飛んでいって、さっと帰ってこよう。
いろいろな場所を、見て回ろう。
そう思い立って、まさに、立ち上がったのはいいのだけれど、
翼が重い。
そう、これが、この世のものでないように、重いのである。
たしかに、人間に翼が生えるという事態、自体が、
突拍子もなく、現実味もないのだけれど、
本当に、有り得ないくらい重いのだ。
これでは、屋上へも辿り着けない。
それどころか、多分、部屋から出ることも叶わない。
参った。どうしようか。翼が生えただけじゃ、誰かに自慢するくらいしかできないぞ。
いや……自慢さへもできそうにない。携帯は、向こうのテーブルの上だ。
写真を撮って、メールするなんて、日が暮れる大仕事になりそうだ。
さて、どうしたものか。
とりあえず、救急車?
電話が手許にない。
なので、誰かを呼ぶという手は、一切合切なしだ。
とすれば、泣き寝入りか。
実際、寝るしかできなさそうだが。
思い立ったが吉日、早速寝ることにする。
翼が邪魔なので、できればうつ伏せに横になりたいが、
もしかすると、そうすれば、自分が重みで潰れてしまうかもしれない。
背中の下が、気持ち悪いが、仰向けになるしかなさそうだ――
目を覚ましたのは、まごうことなき、自室だ。
背中の下には、いびつに丸められた掛け布団が、横たわっている。
夢、か。
今度、夢辞典で調べようか。
なかなか、訳のわからない、夢だった。
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