一条の雲
飛行機雲が征く空は、なんだか君には似合わなかった。
殺伐、と云って差し障りないほど、なんにもない、
夏の暑さの上に、冷たく、横たわる、
ただ茫漠と広がり続ける、空に、
一条の細長い雲が伸びているのだ。
君は、その、たったひとりで流れる雲の真下に立って、
笑っているわけだが、
あっけらかんとした笑顔は、逆光で見えづらいけれど、
たしかに、君の美しさを体現して、そこに在る。
だからこそ、この、どこまでも究極的に空虚な空には、
似合わないのである。
おかしなものだ。
わたしは、この天の元に、きらめく笑顔ありけり、と思っていたのに、
いざ、実際にこうやって、見ていると、
どこかしもに、不一致感、不和な感じがするのである。
変だけど、そうなんだ。
近くに、行って、君を抱き寄せて、安心したい、
と、ふとして思った。
ああ、ともすれば、この虚ろな、わたしたちを包み込むには、あまりに攻撃的な空に、
君が飲み込まれて、消えて、消失してしまうんじゃないか、
そうやって、不安だったのだ。
なんだか、そう思うだけで安心したので(そんな非現実的な話があるわけないので)、
わたしは、君の近くまで行って、
君を抱き寄せた。
さらさらと、波になる、君の髪の隙間から、
遠くの邦へとぶ、飛行機の足跡が、
よーく、見える。
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