暖冬

 ちらちらと舞うように、着地点も盲目なまま落ちていた雪が、
 サラサラとまっすぐに、高速で落ちる雨に変わるので、
 わたしは君に傘をかけた。


「いいんだ、君が濡れてしまうから」


 そう云って、君はわたしの手首をぐいっと傾けた。
 いや……と手首を傾け直してもう一度、君にかけようとしたら、


「この儚くて、せつな的な一瞬がすきなんだ」

 
 怒ってはいないけれど、いたって強い芯のある声で、そう君が云ったので、
 わたしは大人しくしゅんと傘をすぼめた。


 君のまっすぐな眼光が、午後四時の太陽の霞をさす。
 それは、雪を雨に変えた、その暖かい熱線に感謝するようでもあり、
 せつな的な一瞬が永遠になるように、儚く、望むようでもあった。

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