変身
「随分痩せたね」
そう云われるまで、気がつかなかった。
体重が、ない。
体重計は、針を揺らさない。
いや、デジタルなので、針も何もないディスプレイだけれど、
表示される数字は、揺らぐこともなく微動だにしない。
困った。
不思議と苦しさはない、それが当然のように。
軽いわけでもない。自分の体重の感覚なんて感じたこともなかったから、わからない。
はたと思いついて、実験してみた。
500mlのペットボトルに水を入れて、再び体重計に舞い戻る。
驚くべきことが起こった。
またも、数字は一向に動かない。
500ml分の重さは、わたしが口にした瞬間に、
どこか違う次元にいってしまったようだ。
多分は、わたしはもう、この世のものじゃないんだ。
そう思わざるを得なかった。
さてはて、これからどうしよう。
まあ、さっきの実験で、飲み食いはできそうなことが実証されているし、
別に、わたしは幽霊のように、見えざる存在になっているわけでもない。
社会的な活動は、大いにできるし、
生きている人間と、そう変わらないので、
あまり、深く考えずに生きよう。
Kise Iruka text 086;
Die Verwandlung.
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