寒中
秋の朝露が冷たく肌を刺すように、
池に張られた水もひどく冷たい。
君のつややかで、新雪のように白い脚が、ふくらはぎの上の方まで水面に突き刺さっている。
「こうすると、血流がまんべんなく全身に広がる」
朝の日課だと云った。
わたしには、あまりに冷たくて、すぐにやめてしまった。
「脚は第二の心臓だ、ほら、君も」
わたしは首を横に振り、拒否する。
「そう云わずに、さあ」
右手がきつく握られる。暖かい手のひらだった。
ぐい、と勢いよく引き起こされ、
意図せず崩れたバランスを整えるように、前に脚を踏み出す。
入水したわたしの両脚。
君が、飛沫を浴びながら、笑う。
「あはは、いい顔しているね」
きっと、醜い顔だ、と思う。
寒さに引き攣った、苦渋の顔だ。
「それでも、わたしの眼に、新たな君の表情が焼きついた」
君が変わらぬ笑顔で云う。
朝の太陽が射し始める、逆光が燐光のようにまばゆい。
「きれいだよ」
君がそう云うので、そっぽを向く。
寒中、うまく巡り始めた血流が、顔を赤くほてらせるのがよくわかる。
†
Kise Iruka text 098;
polar bear dip.
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