マガジンのカバー画像

SFショート

113
黄瀬が書いた、空想科学のショートストーリー
運営しているクリエイター

#エッセイ

書きたくない

まれに、書きたくない、と思える日が来る。 そんな日は、わたしは、いろいろから解放されて自由になれる。 書きたくない時は、書かなくていい。 そう、文学の神様がささやく気がする。 書きたいときに、書きたいものだけを書けばいい、って。 そういうわけで、今日は書かないことに決めたのだが、 結局、書かないことに決めた、という文章を書いてしまった。 どうしたものだろうか……。 本末転倒なのではなかろうか。 結局、文学の神様は、わたしをこき使って、 文字を、この世界に、

 ブランコとは幼年期のわたしにとってどんな存在だったろう。  公園の中に、当たり前のように、そびえ立っている時もあれば、  そもそも、それがない公園もあったはずだ。  だけれども、  わたしたちは、人生で一度はあの遊具に乗り、  一般的な座り漕ぎ、はたまた、ちょっとアグレッシブな立ち漕ぎを嗜んだものである。  さて、わたしは今、あまりメジャーではない、  いわゆる『寝漕ぎ』をやっているわけだが。  云わない?いわゆらない?  そんな意見もあるかもしれないが、

詩の中

目を落とすノートには、夏が踊っているんだけれど、 窓の外、目を向けたら、梅雨。 厳然とそびえ立つ六甲の山に、希薄な雲がのしかかる、梅雨。 快晴に眩しさを感じたのは随分と前で、 入道雲のかけらは、沖縄の空で見たっきり。 反射する、光輝な陽光もさえぎられて久しくて、 蝉の音より、雨が散じる音が舞う。 だけれど、 じめっぽい夜と、からから音がする夜のコントラスト。 アスファルトに落ちる黒斑と、刺さるほどくっきりとした、 木々とビルの影のコントラスト。 案外、夏に想

キュリオシティ

火星探査ほどわくわくした気持ちを持てるものは、今の私に他に無い。 あの荒れた赤土の地表を駆け抜けるローバーたちは、生まれ故郷を去り、 全くの新天地で、自分たちの足跡を大地に刻む快感を感じているのだろうか。 信じられないくらい、平たくてずっと続く平原。 系内でいちばんの、高々とそびえ立つ巨山。 ぱっくりと大地を分かつ暗黒の渓谷。 私たちがいけないばかりに、彼らが代わりに見つけてきてくれる、新しい発見。 その新情報に、私は胸を高鳴らせて、待つのです。

海底

言葉の可能性を考えるなんて大それたことはわたしにはできない。 今日だって、君が沈んでいった街の上を船で行ったり来たりして、 昨日からの間に崩れた瓦の数とか、 くっきりと残る、あの日走らせた自転車のわだちをなぞったりして、 ただ、偸安に、一日を浪費した。 「ぼく、夢があるんだ」 なんて、あの日の君は自転車を漕ぎながら、 風に流される言葉を必死に紡いでそう云ったけれど、 その夢がなんだったか、わたし、もう忘れ始めている。 言葉って、案外、脆かったよ。 言葉って