【2020】私的上半期ベストアルバム
謎のウイルス騒動で幕開けした2020年ですが、もう早いもので半年が過ぎ去ってしまいました。
備忘録も兼ねて個人的に2020年上半期で、印象に残った/気に入ったアルバムを挙げてみます。当初はサラッと一言コメントで紹介するつもりだったのですが、気がつくと中々な文章量になってしまいました。程々にお付き合いください。
①『Man Alive!』 King Krule
[ XL Recordings/2020.02.21]
サウスロンドン出身のArchy Ivan MarshallのプロジェクトKing Kruleの3rdアルバム。混沌とした気分の日によく聴いていた気がします。
重くて気怠いのですが、先の読めなさのような余白があるところが気に入りました。とことんドライな音作りと無軌道なフレーズが耳に残る作品。
青野賢一さんのnoteでインタビューを読みましたが、マイペースで地に足ついたスタイルはイメージ通り。架空の映画をモチーフにした制作過程も興味深かったです。
そしてそして、購入したカラーバイナルが可愛すぎてニンマリ。(ジャケットのイラストは、彼のお兄さんJackが描いているそうです)
②『Oh My Beloved』 Purnamasi Yogamaya
[ INDEPENDENT /2020.05.30]
リトアニアの女性シンガーソングライター、マルチ奏者でもあるEgle SirvydyteのPurnamasi Yogamaya名義でのファーストアルバム。今作で初めて聞いたアーティストです。
全曲7分ほどの長さでじわじわ展開していくので、心地良くて何度も聴いてしまいます。緻密な構成が素晴らしく、リズムにとらわれない溶けるような歌声も唯一無二!(人に勧めたら「ちょっと宗教音楽みたい」という感想も)
(My Heartという曲↓の、2:40あたりからたまらない。)
レコ屋向けのレビューに"ヴァージニア・アストレイ meets ジェイムス・ブレイク"という表記があり、ヴァージニア・アストレイの『From Gardens Where We Feel Secure』、ルイ・フィリップの『AZURE』などを紹介していました。
環境音楽の耳障りの良さを残しつつ、現代的なアレンジで楽曲を活かす才能に脱帽です。
③『Circles』 Mac Miller
[ WARNER /2020.01.27]
2018年9月に急逝したマック・ミラーが亡くなる直前まで取り組んでいた最期のアルバム。素晴らしいです…。有名プロデューサーのジョン・ブライオンが見事に仕上げました。
穏やかで至極パーソナルな雰囲気に包まれている作品。ドラムやギターの生音とアナログな電子音が彼のピュアなボーカルと溶け合い、心地良いサウンドです。
AppleMusicのレビューではジョン・ブライオン本人によるアルバム制作秘話が掲載されていて、曲ができるまでの過程や2人のやりとりが詳細に明かされていました("Good News"ができたときの興奮気味のエピソードがとてもよかった)。
"Good News"はまるで天国からマックミラーが話し掛けてくれているような気持ちになります。苦悩と同時に垣間見える優しさに泣けてしまう…。
優しい人って、何故すぐにいなくなってしまうんだろう。彼が遺してくれた音楽に感謝するばかりです。
④『Women in Music Pt. III』 HAIM
[ Sony /2020.06.26]
楽しみに待っていたハイムの新作!使っている楽器も構成もシンプルなのに耳に残る名曲が多いこと多いこと。
1曲目の"Los Angeles"から4曲目の"Up From A Dream"までの軽快な流れが大好きです。"3am"でボイスメールの寸劇からガラッと雰囲気を変えてくるところも面白い。
鬱病や糖尿病、そしてパートナーの癌など、数々のショッキングな出来事を乗り越えてきたという3姉妹ですが、その体験が1つのアルバムに昇華されています。私的で自由な歌詞はHAIMの魅力であり親しみやすさです。
アルバムの1曲目は"Summer Girl"かな〜と予想していたので、最初は意外な曲順でしたが、どうやら1曲目の"Los angels"で、孤独なニューヨークの生活で故郷のLAを偲び、最後の"Summer Girl"でLAに戻ってきて安堵するというストーリーになっているようです(LA on my mind, I can't breath からもわかるようにLA愛がものすごい)。
インタビューを読んでいると、Lou Reedだけでなく、アウトキャストの『Speakerboxxx/The Love Below』から影響を受けていたり、Joni Mitchell’sの歌詞のオマージュがあったりと、インスピレーション源に多大なリスペクトを捧げている作品でもあると思います。Geniusを読みながら歌詞を読むのも面白いです。
⑤『Shutting Down Here』 Jim O'Rourke
[ GRM Portraits /2020.05.22]
ファンであるJim O'Rourke氏の新作。
フランスの国立視聴覚研究所(INA)の中のフランス音楽研究グループ(GRM)と《Editions Mego》が新たに始めたシリーズ《GRM Portraits》の第一弾作品の1つです。初めてGRMを訪れてから現在に至るまでの30年間が収められた作品。つまり制作期間は30年ということです…。
(正直、理解できるほどの素養がないので的外れな気もしますが)多様な音を取りまとめる独自の秩序のようなものが存在している印象を受けました。一見バラバラな要素を太い紐でギュッと縛っているようなイメージ。
ジムさん本人も言っていましたが、『The Visitor』に近い作品で、音楽を聴いているというよりかは映画を見ているような感覚です。
序盤に出てくる歯を鳴らすような音(?)が曲の終盤にも再び登場していたので、もしかしたら時間の循環を表しているのかもしれません。
この作品を知る上でTone Glow に掲載されていたJim O'Rourke氏のインタビューを読みましたが、今年読んだ中でも断トツで面白かった記事です(リンクで簡単に紹介してしまうこと自体、このインタビューの姿勢に反する行為だとも言えますが…)。実験音楽との関わりを自分の幼少期からの体験と織り交ぜて語っており、文脈と歴史について今一度考えるきっかけにもなりました。
ひとまず、インタビュー中に出てきたマイケル・ナイマン(著)『実験音楽―ケージとその後』を購入し、ちびちびと読み進めています。
10年後にはこの作品のことが少しは分かっているといいな…。
⑥『My Garden』 JOHN CARROLL KIRBY
[ STONES THROW /2020.04.24]
これまでソランジュやフランク・オーシャンなどともコラボレーションを果たしているピアニスト、プロデューサー、作曲家のジョン・キャロル・カービー、のソロ・デビューアルバム。
生ピアノとデジタル音の融合が独特の雰囲気を醸し出しており、なんとも癖になる作品です。ニューエイジかつスピリチュアルジャズ的な瞑想的要素も纏っていて豊かなバックグラウンドが伺えます。(この曲↓とかMV含め最高です…!)
曲それぞれに意図が感じられるので音楽好きからの支持が厚いのも納得。シンセサイザーやまばらなドラムのチープな音色がかわいらしい。
アーティストで例えるのであれば、ハービーハンコック(これは本人が言っていた)、Sun Ra?、坂本龍一?、Carlos Nino?、細野晴臣?などなど浮かんできますが、個人的にはゲームミュージックっぽいな〜という印象も受けました。
⑦『punisher』 Phoebe Bridgers
[ Dead Oceans /2020.06.18]
LA出身の女性シンガー・ソングライター、フィービー・ブリジャーズのセカンドアルバム。浮遊感あふれるサウンドと秀逸なソングライティングで夢心地に。デビュー作のメランコリックで私的な要素を引き継ぎつつ、今作はひとつひとつのテーマをよりディープに掘り下げているような印象でした。
彼女のトレードマークであるゴシック要素も曲ごとにちゃんと盛り込まれており、オリジナリティの作り方が本当に上手いな〜と感心します(コロナで来日できなかったため京都の映像が撮れず、カラオケ風の映像をこさえた"Kyoto"のMVもGood↓)。
気に入った曲は"Garden song","Halloween""Savior Complex"など。
最後の"I Know The End"には圧倒されました。序盤は大切な人との別れに区切りをつける内省的な歌詞ですが、後半でドラムインしてから世界に光が射すように視界が開けます。ちょっとSufjan Stevensぽい感じもあるかも…。声にならない「叫び」でアルバムが終わり、衝撃を受けました。
⑧『Morning Sun』Okada Takuro
[ only in dreams /2020.06.10]
岡田拓郎さんの約3年ぶりとなるニュー・アルバム。彼のルーツであるフォークロックをエレガントに、そして緻密に曲へ落とし込んだ素晴らしい作品だと思いました。耳馴染みの良いボーカルと同時に楽器の個性も最大限に引き出しています。試行錯誤の痕跡がありありと感じられるアルバムです。
ギターよりもピアノの印象が全体的に強く、そこが独特の儚さや美しさに繋がっているのかなと。個人的に、シンプルなピアノ和音の刻みが好みなので飽きません。"New Morning"のギターソロからの展開も素晴らしかったです。
あと特に好きだったのがドラムの音色。軽くて残響もあまりない、なのに非常に生々しい。これどうやって録ってるんだろう〜と思っていたらこの記事↓で詳しく説明されていました。
岡田さんは常に多面的に物事を捉え、思考を止めない方なので、かなり辛そうだな…といつもインタビューを読みながら思います。世の中に絶望しているからこそ、人一倍、音楽を純に信じているような気もする…(音楽の力で世の中を変えるみたいな意味ではなく)。
複雑な状況下で思慮深く作品を生み出している生き方は本当に尊敬します…。
⑨『En Garde』 Ethan Gruska
[ Warner Bros./WEA /2020.01.24]
前述したフィービー・ブリジャーズのプロデューサーとしても知られるEthan Gruskaのソロ2作目です。埋もれて欲しくないアルバム。
(いい意味で)一貫性のなさがオリジナリティとなっている作品です。ソフトロックの要素、R&Bのメロウな要素、80'sポップスの要素、現行のインディーフォークの要素などなど、その音楽性の豊かさに圧倒されました。ソングライティングも素晴らしく、音響面でも非の打ちどころがない…、どうなってるんだ〜。
アレンジの塩梅もすごく好みで、意表をつかれる音の選び方が多かったような気がします。さり気ないパーカッションの入れ方とか上手すぎて参考になりました。
⑩『Fool's Harp Vol. 1』Fools
[ Music From Memory /2020.06.20]
エレキングの増村さんのレビューでたまたま知ったグリズリー・ベアのドラマーであるクリストファー・ベアのソロ・プロジェクト。ドンピシャに気にいってしまいました。
アンビエント、ニューエイジなどを扱うアムステルダムの〈Music From Memory〉からリリースされており、とにかく心を落ち着けたい時に聴く、お守りみたいな位置付けに。
詳しくはこちら↓を読んだ方が良くわかると思いますので興味のある方はぜひ。
まとめ
あと10作品ほど残っていますが、書くのがしんどくなってきました。続きは気が向いた際に紹介したいと思います。
「この人この音楽も好きそう!」と思ったら、コメント欄などで気軽にレコメンドしてくれたら嬉しいです。
下半期も楽しみなリリースが沢山ありますね、皆さんなんとか生き延びましょう。ではでは。
元気になります。