多様性という、あくまでも「枠組み」

多様性ってなんだろうか。なんか規模の大きな話に聞こえてしまってどうしても考えるのが嫌になりそうだ。

最近、たまに昔のファッションだとか、そういうものを観たりする。鑑みるに、近頃は何もかもが均されてしまっている気がする。「多様性」とかいう言葉の大義名分の下出る杭は打たれて、残るのは結局全身ファストファッションブランドの服を着て流行りのチル(笑)な曲を聴いている頭の弱い人間達だけだ。
同調圧力っていうやつだと思う。すごく賢い(と私は思っている)人と話していて気付いたが、戦時中に近しいものを感じる。国を挙げて、世界を挙げてひとつに纏まって(其の善し悪しはおいておく)ひとつの方向へ向かう。逸れた者、反抗する者は消してしまう。
結局は其の「多様性」ってのも「枠組み」でしかなくて、其れが思考が狭めてしまっている気がする。以前読んだ本から引用する。

フーコーによれば、性的なアイデンティティ、たとえば「同性愛者」というアイデンティティであるとか、自分をどういう性的欲望を持つ人格として捉えるかというのと、この近代化の過程で成立していきました。ですからそれ以前には、誇張して言えば、同性愛「者」はいなかった。同性愛行動はありましたが、それはまだアイデンティティではなかった。そして、性の逸脱を排除していく動きによって同性愛者というアイデンティティが成立したのだとしたら、今日のLGBTQ支持の運動は、そう単純なものではないということがわかるはずです。つまり、そもそも排除によって成立しているアイデンティティなのだから、そのことを単純に擁護できないはずなんです。むしろそれ以前の良いアイデンティティも悪いアイデンティティも不成立だった時代の、多様な同性愛行動を肯定し直すということが何らかのかたちで伴わなければならないはずなんです。そうした批判が伴わなければ、たんに近代という構造をこじらせているだけになるかもしれない。

「現代思想入門」 千葉雅也 (2022年初版)

アイデンティティというのが、我々の視野を狭めているのではないだろうか。マジョリティは、(マジョリティから見た)「異常者」各々にタグを貼り付けてその枠組みの中に隔離することで主流派世界が円滑に廻る様にする。精神疾患がわかりやすい例だろう。以前は「ちょっと変な子」「個性的」で済んでいたのが、病院へ連れていかれ検査をされ、投薬を受けるなどする。これの何がマズイか。「変な子」をマジョリティが扱いやすいように変えてしまうという姿勢にある。勿論、本当に投薬が必要な場合もあると思う。そうでなければ社会は廻らないのもわかっている。しかし、時には「すぎない」というのも大事だと思う。
ここでもひとつ引用させていただこう。

たとえば誰かを介護しなければいけないとして、そのときその人に自分の全生活を捧げてしまったら、介護者は生きていけなくなってしまいます。あるいは、介護される側からしても、援助は必要だけれど、それが過剰になると監視されていると感じるようになってしまいます。たとえ人間関係においてつながりが必要だとしても、そこには一定の距離、より強く言えば、無関係性がなければ、我々はお互いの自律性を維持できないのです。つまり、無関係性こそが存在の自律性を可能にしているのです。関わる必要があっても、関わりすぎないという按配が問われるわけです。

「現代思想入門」 千葉雅也 (2022年初版)

極端且つわかりやすい例がロボトミー手術だろう。スキゾだとレッテルを貼り隔離施設へ押し込んで脳の一部を切除する。そうすれば、(マジョリティからして扱いやすくなる、という意味での)精神状態が好転すると信じて。
私は単に冷たくなれと言っている訳では全然なく、互いに一定の距離感を保つことが大事だ、と。見捨てていく冷淡な社会を作るのではなく、かと言って何でもかんでも尻を拭うような面倒まで見ることもしない。良い意味で「興味がない」という状態を創り出すべきなのではないか、と考えるわけです。はい。

少々脱線気味になるが、最近の人間は素直じゃない。特に若いやつ。「好きの反対は興味がない」と耳にするが、インターネットでネチネチ難癖をつけている人間どもにこれを言うとどうなるか。

「いや、こんなやつのこと興味ねーし」

とか抜かすやつしか居ない。そうじゃない。興味がないのであれば関わらなければいい。

だいぶ話が逸れたが、要は(あくまで)いい意味で人にある一定以上の、興味を持たなければ、難癖をつけに行かなければ、もっと生きやすい世界になると思う。線引きが大事なのだ。しかし、そのラインというのも、定義というものはないと思う。ケース・バイ・ケースで考えるべきだ。

そうなると、昨今の「多様性」を推進したがる情勢は、人々に「関わりすぎている」のではないか?時にはその「多様性」を泳がせることも必要なのではないか?

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