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月の夜、本を読む・漱石「それから」を読む

「それから」のそれから

夏目漱石は、言わずと知れた日本文学史に名を残す大作家である。
しかも作家として不遇な時代などなく、存命中から高い評価を得ていた。
28歳の時に結婚して、たくさんの子供にも恵まれ男子の跡継ぎも生まれている(これは当時の人生においてポイントが高い)
絵に書いたように順調で幸せな人生だが、40歳ぐらいから胃病に悩み始め、49歳で死ぬまでの間、病にひたすら苦しむ。

漱石は、結婚前に本当に好きな人がいたらしく、その人との結婚をあきらめてお見合いで結婚したらしいのですが。
結婚して、いわゆる身を固め、跡継ぎが出来、すべて順調な人生の中で自身の「心」だけが本当に好きな人と結婚出来なかったことに悲鳴を上げ続けてたんじゃないだろうかって気がしてしまう。
その悲鳴が体を蝕み、やがて命をも奪っていったんじゃないかな。
漱石はもう大人なんだから“恋”なんて少年のようなことを言っていないで一人前の大人として生きていこうと思って結婚したのだろう。
だが心はそんな簡単に無視して大丈夫なものじゃなかったんじゃないかな。
自分の心を無視して、いや心などないものとして結婚した時から“心”の自分自身に対する復讐は始まり、“心”がゆっくり時間はかけて自分自身を殺す。
漱石の「それから」を読んでそんなことを感じました。

ちなみに「それから」の主人公(で漱石の分身と思われる)代助は、自分の心を生かす、つまり本当に好きな人と人生を共にすることを決意し、小説は終わるのだが、小説ではこの後、社会的な意味で代助が殺されることが暗示されている。

うーん。
どちらにしても“死”か。

明治の文豪の描く人生は、なかなかハードである。

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