台風、だからこそ...
「おぉ、バシ、もう目処がついたろ。オツカレ」
「お疲れ様です!」
「じゃ、こういう日だし、いつもより早く出れるしな。
ヨシっ、飲みに行こうヤ」
そう、
今日は季節外れの大型の台風が近づいていて、
会社に来てみたものの、
昼には帰る様、総務から指示があったノダ。
そうは言っても、工場はそんなわけにもいかず…
数名のオッちゃん達とやりきりで残っていた。
「でも、台風来てますよ。ちょうど18:00ぐらいが通過…ですかね」
「大丈夫ダヨ。今回のは足が早いから、飲んでたら、過ぎてるって。
むしろ飲んで帰った方がちょうどいいぐらいだろ」
(ん?何時まで飲む気なんだ?)
「それに、こういう日は客が来ないから、ママも喜ぶしな」
「…(それか…)そういうモンですかね…」
「まぁ、なんとか4時には出れんだろ。お前も大丈夫だろ?
で、タクシーで行けば、ギリギリ大丈夫じゃないか?」
「ママにも、”カオ出すから、お店閉めんな”って連絡しておけ」
「分かりました!」
と言ったものの...
こんな日に、タクシーがすぐ来るわけもなく...
でも、こういう時には拾う神がいるもので。
「バシ君、こんな日にサブちゃんに付き合うんだって?
相変わらず大変だねぇ。
どうせ、いつもの野毛でしょ。
じゃぁ、送ってってやるよ」
工場のオッちゃん達は、文句は言うけど、
基本、優しい。
ありがたく乗せてもらった。
「サブちゃん、あんまりバシ君に飲ませちゃだめだよ」
「バカやろぅ。コイツ、底なしダゾ。こっちが大変だよ」
(いゃいゃいゃ...)
早い時間だけど、人出は多い。
なんとなく、いつもと違うのは、
台風を見込んで、さっと引っかけて帰る人達が多い気がした。
そんな人達の流れに逆らって、腹ごしらえの1軒目。
着くなり、ビールと刺し盛と枝豆。
中々、お刺身に手を付けないボクを見て、
「なんだ、早い時間だと、腹減ってないのか?」
「いやぁ、”お刺身はビール”って感じじゃ、なくないです?」
「じゃぁ、それ、きゅぅぅっと空けちゃえばいいじゃねぇか」
「まぁまぁ、別に、今日は急いでないですし」
「まぁ、そうだな。ゆっくりやろうヤ」
「だいたい、明日出荷だってのに、”早く帰れ”ってどうすりゃいいんだよ」
「まぁ、コッチはホンカンとは違いますからね。
去年は、台風が過ぎた後、帰った事もあったんで、
いい方じゃないですか?今日は」
「それにしてもだな、・・・」
台風に関係なく、
お店の中は、なんとなくゆっくりと過ぎていく...
オイシイお刺身で、日本酒が進む。
「じゃぁ、そろそろ行くか。 ママには連絡してあんだろ?」
「待ってるって言ってましたよ」
外に出ると、雨は思ったより降ってなかった。
「ほら、言ったろ。飲んで帰った方がいいって」
(いやぁ、まさかの目の中だったりして…)
どうやら台風はちょっとそれた様で、
ズブ濡れ覚悟だったけど、それほど濡れずにママのお店に着く。
カランコロン、カランコロン♬
扉を開けると・・・
お店は満席だった。
どうやら、サブちゃんと同じ考えのオッちゃんばかりの様だ。
(スゴいな。オッちゃん達のパワーは。
でも、台風が直撃してたら・・・
このオッちゃん達、どうしてたんだろう...?)
(そのパワーを、どっか他の事に使えれば...)
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