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Melt Away ”やがて消える”

なぜだろう なにもぼくの思い通りにいかない
でも君に会うたびに かつての自分を取り戻せるような
そして憂鬱はやがて消えていく 消えていく

世界はぼくだけのために待ってくれない
世界はぼくがどうしているかなんて気にしてくれない
まるで孤島のようになった気分
君の笑顔を見るまでは
憂鬱はやがて消えていく 消えていく

ぼくが苦しんでいる姿なんて君に見せたくない 絶対に
ぼくが泣いている姿なんて君に見せたくない 絶対に
ぼくがため息をつく姿なんて君に見せたくない 絶対に

ときどきぼくは世界との関わりを遮断してしまいがちだ
そんなときは君とのつながりもね
でも君が話す声を聞くと
下ろした心のシャッターが自然と上がる
そして憂鬱はやがて消えていく 消えていく

そして憂鬱はやがて消えていく 消えていく

Melt Away "やがて消える”
原詩:ブライアン・ウィルソン、1988
翻訳:スズキコウタ、2022

1988年、オリジナルテイク。2000年リマスター。リマスター作業時の手違いにより初出時とミックスが違う。

1988年、オリジナルテイク。2017年リマスター。初出時のミックスに準拠したバージョン。

1995年、自伝映画『アイ・ジャスト・ワズント・メイド・フォー・ジーズ・タイムス~ノット・メイド・ディーズ・タイムス』のためのリテイク。

東京・大阪・名古屋・カリフォルニアなど各地でブライアン・ウィルソンのコンサートを観たが、この曲の生演奏に接することができなかった。この2003年の映像、この楽曲の信仰者としては涙なしに観れない。とても貴重な記録。

ブライアン・ウィルソンを11歳に「信仰」し始めて、25年が経つ。いろいろな人に影響を受けてきたが、両親以上のインプットがあったと感じるほどの大きな存在だ。

なぜ僕にとって、彼の音楽と過ごしてきた半生が励みであり続けてきたかのひとつは、純真無垢に必死に生きる姿が鮮烈に旋律・和音・通奏低音・アンサンブル・歌詞・声から伝わってくることだろうと思っていて、この『Melt Away』という曲はひとつ象徴的な曲だ。

シンセサイザー中心でありながら深淵な編曲。
いくつものレイヤーで重なった複雑なヴォーカルパフォーマンス。
喪失や苦しみを乗り越え、前線に戻ろうとする姿。

今は亡き、大滝詠一氏が雑誌に寄稿した際の本楽曲への言及を載せておく。

"Melt Away"は長期間活動を休止している孤独な者にとっては涙なしには聞けない曲だ。<世界は私がどうであろうと気にしてくれるわけではないし、私を待っていてくれるわけじゃない>という一節には感情を動かさずにはいられない。かつてポール・マッカートニーがブライアン宅を訪ねたときに、納屋かなんかに隠れて、いくらポールが呼んでも出てこなくて、中で泣いていたという話を聞いたが、それが思い起こされる名曲である。

大滝詠一「ブライアンのアルバムの向こうに聞こえるビーチ・ボーイズ」
レコード・コレクターズ 1988年11月号


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