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もはや産後ではない

前回は、男と女のちがいがテーマでした。親になる準備段階でも、男女の差があります。

男性が父親になるプロセスは、わりと情緒的です。浜田省吾は『I'm a father』の曲で、「かつて夢見る少年だったこのオレも今ではFather」と歌いあげました。

一方、女性が母親になるときは身体的。妊娠すると胎動やつわりがあり、出産のドラマを経て、授乳する。女性は出産育児でホルモン分泌量や体重が大きく変動し、身体の変化を伴う形で母親になる自然のプログラムがあります。

男性には、そうした身体感覚の変化がありません。配偶者の出産でいきなり父親になるため、「父親になった」ことに気持ちが追いつかない人もいます。

男性は自然に「父親になる」わけではありません。男の育児は「パパ・スイッチ」が必要です。パパ・スイッチとは「I'm a father !」と自覚した瞬間のこと。

2009年10月、ファザーリング・ジャパンで日本初の父親学校「ファザーリング・スクール」を開講しました。全八回の講座で、各講座の狙いを「パパ・スイッチを点灯する」と定めました。

「父親という生き方を楽しもう!」と呼びかけながら、子育ての楽しみ方や夫婦コミュニケーション、ワークライフバランスなどを学びます。父親の自覚を促し、役割期待を果たすことで「笑っている父親」となり、家族も笑顔になりました。

ファザーリング・スクールの必修科目は「産後ケア」です。産後は夫婦パートナーシップの強化月間。パパが産後の女性の身体について理解することはマスト事項だと思いました。

産後ケアの講師をお願いしたNPO法人マドレボニータ代表理事 吉岡マコさんに、受講生は産後のリアルを教わりました。「産んだらなんとかなりませんから!」「もはや産後ではない!!」と刺激され、パパ・スイッチが見事に入りました。

受講生の中心層は0,1,2歳の子どもがいるビギナーパパで、全体の7割ぐらい。次に多かったのは配偶者が妊娠中のプレパパ。独身男子もたまに来ました。

産後に起こることのレクチャーは、子どもが生まれた後では時すでに遅し。二人目三人目以降に活かす考えもできますが、できうるならば、父親になる前に知ってもらいたいところ。

子どもが生まれる前に両親学級に参加する男性もいるでしょう。しかし、そこで行われるのは人形を使った沐浴練習や、おもりを装着した妊婦擬似体験といった程度で実践的ではありません。

ぼくも両親学級に出ましたが、父親が主体的に学べる内容ではなく、面白くなくて。それで、ファザーリング・スクールを始めようと思ったのでした。

プレパパ、とりわけ育休を取得する予定の男性は、産後ケアを含めた育児教育プログラムを受けた方がよいと思います。母親になる女性全員が母親学級を受けるように、父親になる男性全員が制度・仕組みとして受講できれば理想的です。

ファザーリング・ジャパンではパパ向け産前講座を広めるべく政策提言を行っています。先日は、代表・理事・顧問がプレパパ&プレママ応援動画を作りました。身近に必要な方がいらっしゃればシェアいただければ幸いです。

パパ・スイッチについて補足です。

すでにパパ・スイッチが入っているパパたちを対象に「スイッチが入ったタイミング」をアンケート調査したことがありました。1位から5位まで結果は次のとおり。(参照:『新しいパパの教科書』パパ192人アンケート、複数回答、2013年)

1位 赤ちゃんの子育て中 75人
2位 妻の妊娠中に 64人
3位 立ち会い出産で 45人
4位 パパ向け講座や講演会 44人
5位 パパ友や先輩パパの話を聞いて 26人

パパ・スイッチのタイミングで最も多かったのは、赤ちゃんの子育て中でした。例えば「赤ちゃんをお風呂に入れていると、赤ちゃんの手が本当に小さくて。『このか弱い命を守らなければ!』と思ったらパパ・スイッチが入った」など。

2位は妻の妊娠中。妻から妊娠を告げられて、オォーッ!と叫んで駆け出した方がいました。妊婦検診に付き添い、エコーでおなかの赤ちゃんの画像を見て初めて父親になる実感が湧いた人もいます。

3位は立ち合い出産。命がけで産んでくれた妻に感謝し、生命の神秘に感動してパパ・スイッチが入るケースはよくあります。立ち合い出産、おすすめです。

ぼくも、二人の娘とも立ち合いしました。出産は助産院で、夫の立ち合いが前提でした。正直にいえば、一人目のときはスイッチが入りませんでした。

いきみ痛がる妻と慌ただしく動く助産師さんの傍にポツンと座り、「こういう場面で男は役立たず」と身の置きどころがない心境。血液や羊水が飛び散り、ホラー映画の恐怖感。赤ちゃんが生まれた瞬間は「エイリアンが出てきた!」と。

そんな話しを後日、助産院の先生に話したところ、「それは立ち合い出産じゃなくて、立ち見出産」と言われました。

一応、二人目のときは立ち合い出産がちゃんとできました。一人目の出産はパパ・ママ誕生。二人目のときは、お姉ちゃん誕生の記念日です。

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