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ロマンは不満

「夫のロマンは、妻の不満」

20年ぐらい前、超大手企業の定年前研修を見学したことがありました。定年を翌年に控えた社員を集めた1泊2日の研修。会場は自社の保養所で、奥様もご招待。

研修の目的は定年後の生活設計で、慰労を兼ねていました。参加者の大半は悠々自適な定年ライフが待っており、研修は定年前の手続きや年金の説明、健康維持といった内容でした。

プログラムに夫婦で行うペアワークがありました。定年後の一日を計画する内容で、0時から24時まで1時間刻みの表にそれぞれ行動計画を記入します。

参加していた社員は全員が男性で、女性社員はゼロ。男性陣は定年後の生活を思い浮かべ、遠くを見つめるようにして計画表を埋めました。

朝6時 起床、新聞、7時 朝食、8時 犬の散歩、9時 テレビ、10時 読書、11時 散歩、12時 昼食・・。午後の欄は書くことがなくなり、犬が3回も4回も散歩に連れて行かれました。

 一方、妻は普段と変わらない生活です。朝起きたら掃除や洗濯など家事を行い、午前はコミュニティセンターで歌の会。お昼は友人とお茶会をして、夕方までに買い物、夜は食事を済ませたらテレビ番組をみて過ごす。

参加者がひととおり書き終えたところで、講師が「社員の皆さん、食事の予定を入れていましたが、片付けはしなくてよいですか?」 と言うと、男性陣は慌てて食事の後の欄に「片付け」と書き込みました。

講師は続けて言いました。「奥様方。大変に失礼ながら、旦那様は日中も家にいらしてお昼ごはんを家で食べるようです。旦那様のお昼のご用意はいかがしましょうか?」

お連れの方々はハッ!とした表情になり、「定年退職した夫がずっと家にいる生活」をリアルに想像するのでした。

定年後にしたいことを考える演習もありました。ゴルフや釣りなど趣味三昧、日本百名山めぐり、世界一周クルーズなどなど。いろんなプランが出てきて盛り上がります。

そこで講師が言いました。「ゴルフはたまの休日にするから楽しめるんですよね。定年後はサンデー毎日で、おそらく3日で飽きますから」

夫のロマンは、妻の不満になりがちです。趣味に打ち込む余生もよいのですが、できれば奥様に了解をとってくださいね」と。

いまどきでは、そんなのどかな定年前研修をやっている会社はないでしょう。

定年後の悠々自適な生活はもはや望めません。公的年金では生計が成り立たず、定年後も働き続けて生活費を稼がなければなりません。

ベストセラー『LIFE SHIFT』は、教育→仕事→引退の3ステージの生き方は終焉したと強調します。

20歳前後まで教育を受け、65歳まで仕事一辺倒、引退したら余生をのんびり過ごす生き方はもはや難しい。人生100年時代の到来で、余生が長くなりすぎたからです。

これからはマルチステージの生き方になります。マルチステージを生き抜くために、大人になっても学び続けることが求められます。

レクリエーションは余暇や気晴らしではなく 、re-creation(自己の再創造)で使う。自己研鑽して、2つ3つのキャリアを得ることで、選択肢を増やすことが大事。

ぼくがライフシフトしたきっかけは子育てでした。36歳のときに長女が生まれ、育児にシフトする生き方を志向しました。

もともとは仕事重視の価値観が強い人間でした。子どもが生まれて、当初は「父親としてしっかり稼がねば」と気負いました。

ぼくが当時いた企業は年功序列で、出世して給料を増やすには何年もかかりました。手っ取り早く稼ぐには残業代を増やすしかない。でも、残業すると帰宅時間が遅くなって育児ができなくなる。

そんなアンビバレントな悩みを抱え、妻に「残業代を増やすのと、残業なしで早く帰宅するのと、どっちがよい?」と相談しました。答えは「早く家に帰ってきて育児してほしい」でした。

そのとき妻から「残業代を稼いで」と言われたなら、ぼくは違う人生を送ったことでしょう。

翌日出社すると「18時に帰る宣言」をして、残業ゼロの働き方に切り替えました。残業しない代わりに、これまで以上の成果を出そうと誓い、集中して働いて売上・利益で最高レベルの結果を残しました。

冬の賞与の時期となり「残業代が減ってもボーナスで稼げばよし」と考えていたら、評価が下がりました。え!?と思いました。

上司に「成果を出した社員の評価を下げるとは何事!」と詰め寄りました。すると「あなたは協調性がない」と査定理由を告げられ、「給料は我慢料。お前も我慢しろ」と諭されました。

たしかに見回すと、課長・部長・役員と給料が高くなるにつれて我慢の度合いが強くなる。管理職になると週の半分は会議時間で埋められ、自分のしたい仕事はできなくなる。

そのとき「このまま会社で働き続けたら、我を殺しつづける仕事人生になる」と思い至りました。我慢料をもらいながら働いて仮に65歳で定年したとき、29歳になった長女から絶対「イケてないオヤジ」に見られるに違いない。

そんなことを考えたら、いたたまれない気持ちになりました。「会社を辞めよう」と決心がつきました。

そのタイミングで「笑っている父親になろう!」というファザーリング・ジャパンのメッセージに出会いました。笑っている生きたいと望み、ぼくは自主的にライフシフトすることにしました。

これからはコロナ危機で混沌とした世の中に突入し、過去をなぞらえる生き方はますます難しくなります。否応ない形でのライフシフトが待っているかもしれません。

話題を変えます。

パパは子育てでもロマンを抱きがちです。

育児に積極的なパパたちへのアンケート調査で「子どもが大きくなったらしてみたいこと」を尋ねました。(n=192、『新しいパパの教科書』2013、P170より)

1位 旅行(海外旅行・父子旅行) 57人
2位 お酒を飲みたい 36人
3位 スポーツ(野球、ゴルフなど) 32人
4位 登山・キャンプなどアウトドア 16人
5位 デート(映画・食事) 14人
6位 乗り物(ドライブ、ツーリング)13人
7位 議論したい、語り合いたい 12人
8位 孫育て 9人
9位 仕事 8人
10位 楽器(バンド、ピアノ連弾)4人

ベストスリーは「旅行」「お酒」「スポーツ」でした。

「一緒に旅行をしたい」がとくに人気で、「息子とキャッチボールしたい」「娘の結婚式で泣きたい」といった声がありました。

パパはロマンを求めてよいけど、ロマンスはバーチャルな世界に留めましょう。既婚者には旅先で恋のアバンチュールとかありませんから。

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