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【note116枚目】 ルポ池袋アンダーワールド

 リンクから飛んでも私には1円も入らないので安心して飛んでください。

 その世界へ足を踏み入れる度胸はないくせに、安全なところから覗けるだけ覗きたい。小心者で狡いすけべ心は中学生の時分から三十路を越えた未だ止むところを知らず。

 共著者の中村淳彦さんと花房観音さんには、個人的に不思議な巡り合わせを感じている。それは前述の狡いすけべ心が故の部分が大きい。

 始点は確か真梨幸子さん。本棚に置いてるだけで呪われそうな強烈なぬめりを帯びた女性の心理描写が恐ろしくも魅力的で、何作も連続して読んでいた時期があり、『アルテーミスの采配』という作品に参考文献として挙げられていたのが中村淳彦さんの著書だった。何年か後にすっかりそのことを忘れて『職業としてのAV女優』を購入して読んでいくうちに、以前読んだ小説とのリンクを多分に感じて驚いた。フィクションに織り混ぜられたノンフィクション、痛みを感じるノンフィクション。とても不思議な感覚だった。

 その後も何冊か中村淳彦さんの新書を購入し、主に貧困に喘ぎながら性産業へ足を進めるも負の連鎖から抜け出せない女性たちのノンフィクションを、時に心を痛めながら読んでいた。でも、どうしてそうなるのか。どこか理解できない部分がとても多くて、「こんな人もいるんだな」なんて冷ややかに捉えていた。今思うとそれは「見下し」の感情だったのかもしれない。

 また時は流れ。高木瑞穂さんのルポ『売春島』の文庫版を手に取った。氏のことはテレビ番組で知って、代表作として挙げられていたのがこの一冊だった。ごくごく近年の日本にこんな場所が存在していたなんて、衝撃的だった。現地での丁寧な取材、今と昔を知る住民の生の声。命からがら島から抜け出し、死に物狂いで泳いで向こう岸に着いた時、すでに追っ手が岸で待ち構えていた。そんな一文が今でも強烈に頭に残っている。ゾッとした。

 売春島に関連することを調べていてたどり着いた中に花房観音さんの『うかれ女島』があった。やはりこれもフィクションとノンフィクションがシームレスに繋がれた気持ちがして、ゾクゾクした。そのあとしばらくは花房観音さんの作品を読み続けた。京都という比較的身近な場所が舞台になる事が多くて、なんとなーく情景をイメージしやすい。エッセイという形でご自身の半生をしたためられた『ヘイケイ日記』も名作。これは自分にも刺さりすぎて最早しんどい。ただ、花房さんほどの強い衝動とか、欲求は私には芽生えてないんだなと思う。同じ立場になったら同じ行動すると思うけど、そのバッターボックスに立ちいってないのよね。私は。

 いつでも安全なところから興味ある事を見ていたい。そんなどこまでも狡い人間。

 前置き過ぎた。こんな感じで、自分の興味があってつい手を伸ばしてしまう分野に不思議といつもいらっしゃる中村淳彦さんと花房観音さん。お二人が共著を出されるならこれは読むしかない。

 舞台は池袋。二次元オタ、声優オタ、腐女子、若俳オタ、男ドルオタとひと通り池袋の世話になってきた三十路。イメージといえばやはりアニメイト本店、K-BOOKS、キャスト館、乙女ロード、サンシャイン60と東口?の方でもかなり限られたエリア。(地図が読めない女なので東西南北がわからない) そのイメージは今回で終わった。観光客としてのほほんとうろついてるだけではその街の危なさとか猥雑さというのはいまいちピンとこない。こんな仄暗い街だったなんて知らなかった。

 昔から行き場を失った人々が行き着き、その中でもまた生き方を模索し、多種多様な人たちが集う街だったという。標準とはとても言い難い、ある部分「異常」な人たち。それが昨年のスポーツの祭典や、近年のSDGsへの関心によってぐいぐいと美化作戦や風景の転換を推し進めている行政によって街に集う人々が追いやられていくというのは字面の上ではとても矛盾している。多様性の中にも、認められて尊ばれるものと、認められず淘汰されていくものがあることを強く感じた。

 ひとりで死ねない人たちが集まってきて、不思議と誰かを巻き込んで亡くなっていく話には鳥肌が立ったし、子供の進学に一切協力しない高所得の親が存在していることには驚いた。逆ならまだ理解出来るけども。そのまま進学してもお金にとにかく苦労が絶えず学業を全う出来ないというのは読んでいてとても辛かった。こんな現実が今の日本にあるのか。

 変態居酒屋のママの話も強烈だった。途中ちょっと気持ち悪くなるくらい強烈だった。池袋ミカド劇場での踊り子さんの話も。最近はめっきり行けてないけど、ストリップは私も大好きだ。そこに救いを感じるという経験は今のところ無いんだけど、ええもんみたな〜と毎回心がほっこりして劇場を後にしている。「ええもん」と捉えるあたり自分事として沁みる経験はまだ無いんだろうなと思う。

 「池袋」という街を1枚ずつめくって言語化され、言われないと仄暗さや猥雑さを感じられないという点は身に覚えがあった。新今宮駅周辺は、飛田新地や西成のドヤ街が目と鼻の先にあって、危ない街だと言われてもその実感がなければ普通の街。まぁ確かに変なおじさんはたくさんいたし、ヤのつく自由業の方の葬儀が行われた日は駅までの迂回ルートを学校から指示されたけど。

 あと、卒業旅行で泊まった池袋のホテルがめちゃくちゃ危ないホテルだったと後から知ったり。何もなかったから良かったけど。

 でも、中村淳彦さんの最後の章で恐ろしく感じた部分があった。

 取材終了間際に声をかけたピンサロ嬢さん。男性経験のないまま性サービス業に従事されているとの事で、なるほどなぁそんな事もあるかと読み進めていくうちに、めちゃくちゃ聞き覚えのある固有名詞が出てきた。それまで元ジャニオタのホス狂いさんの話をYouTubeやらで散々聞いたことあったけど、正直全然イメージが湧かずにいた。そんな事もあるんだな、満たされ方が段違いだからハマるんだろうなくらいに捉えていたところ、急に話が身近になって怖くなった。特典会へ行くために頑張る、この接客を終えたらCD何枚、と彼女にとってそれは趣味・娯楽の一種ではなく、その名の通り「生きるモチベーション」になっているように感じられた。人気上位(数年前のランキング)のメンバーだから大変なことも多いんだろうな。

 それが猛烈に怖かった。夜職や性サービス業に従事しているオタク、実在するんだ……という驚きもあった。オタクのコミュニティであーでもないこーでもないとこねくり回されることはあっても、生の声としてまとめられ、書籍に固定化された事にはとてつもない衝撃と恐怖を感じた。

 怖いとか、驚きとか言葉を重ねすぎているのは自分の中の現実とリンクして、頭で具現化出来たからだと思う。最後に1つ強烈にイメージ出来た事によって、本作が映す街の立体感や仄暗さに一歩現実感が生まれた心地がした。次、池袋へ行く機会があればその時はこの本を片手に街を歩いてみようと思う。

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