【note135枚目】 同人AV女優/中村淳彦

 中村淳彦さんの本を買うのはこれで何冊目だろうか。毎回、読み終わる頃には暗い気持ちになっている。それでも書店で目にするとどうも手に取ってしまう。購入してしまう。こと「アダルト」「貧困」のカテゴリーについての著書限定にはなるが、ファンと称して差し支えないかもしれない。

 貧困のもとにあって、生きる手段として仕方なく性産業へ流れていく女性たちをこれまでの書籍でもたくさん見てきた。中には本当にどうしようもなくて、読んでるだけで辛くなって涙が出た人もいた。でも、「奨学金の返済が出来ないから」が理由の第一にきて、そのまま結局返済が滞ってしまう→貧困に。という流れは何度読んでも理解が出来なかった。数年に渡って小口で返済を続けていく設計で、それでも難しい時の手立てもある程度は用意されている。使えるものを使わずして、ただ大きな金額に圧されてリスクの高い、でも実入りがいいかは不透明な労働を初めてしまうのはあまりに惜しい。どの書籍にも1人はいるこのモデル、どこかを掛け違えれば自分も彼女たちと同じ道だったかもしれない立場な分、読む時にもつい力が入ってしまう。もっとやりようはあるはずなのに…と。

 「AV新法に関連した『適正AV』」にまつわる話、標題の「同人AV」、そして地方で拡がる「マニア相手の小遣い稼ぎ」が大分類になるのかな。

 まずは「AV新法と適正AV」新法についてはきちんと追えていなかったから、今回書籍を読んで初めて概要を理解できた。賛成・反対の対立のみならず、同じ反対の立場でも考え方による深い対立があった事には驚いた。策定の背景にあったのが出演強要問題や、引退後の生活に対する影響があるというのは理解出来る。けれども、新法は「出演者は必ず善意である」みたいな考えが濃すぎないか?製作者も正しく保護して利益を産む構造じゃないといけないはずなのに、おかしい話だなぁと素人考えながら感じた。新法の施行によって、仕事の身動きが取れなくなって、すぐ目の前を生きる為の収入も絶たれてしまうのはあまりに酷すぎる。新法の施行に対応出来たのは、業界最大シェアの大手だけ…という所にはきな臭さしか感じない。けれども。法律は制定から施行まで周知の期間が十分にあるはず。(今回の事についてここはまだ調べられてないからわからんけど)その間に関心を持って法律の内容を精査して、対応した枠組み作りや、今後の対応を制作側、プロダクション、タレント個人も検討出来なかったのかなとも考える。私が外野一般人だから言えるだけなのかもしれないけど。

 AV女優さんとは非常に門戸が狭くて選ばれた存在じゃないと務まらない職業というイメージがある。それはあくまでもピラミッド頂点の専属女優さんの話であって、実際にはもっと裾野が広く、麓の草の根まで様々なAV女優さんが存在している。おそらく「草の根」にあたるのが「同人AV女優」 最近よく目にする「個人モデル」というのも近しい存在になるらしい。適正AVで稼ぎが著しく悪化した女優さん、風俗から鞍替えした嬢。様々な模様。個人からの依頼を受けて撮影に応じるという商売モデルで、その後ネットに流れようが特に関心がないという言葉には驚いた。彼女たちの多くがその場限りのお金にしか関心が向いてないようだった。将来的に、という言葉はきっと意味がないんだろうな……得られる総額に対して、そんな先を考える余裕は無いという事なのかもしれない。裸のお仕事をする人たちには、正しくあるなら、正しく守られて、正しく報酬を得てほしいという気持ちがある。でも、一般の職業と同じように透明度を上げてしまうと、特殊な業界の特殊な報酬では無くなって一般化してしまう。それはそれで夢が無いというジレンマがあるとどこかで読んだ。

 最近流行っている個人ファンクラブの構造も初めて知った。コンサルやプロデューサーがついて、素人(便宜上そう呼ぶ)のファンクラブがしっかり稼げる構造になっているのは、適正とされてる業界も見習う部分があるのではと思った。初期投資や設備投資にかかる金額が全然違うみたいなので難しいか…。

 最後は地方で拡がるマニア向けのお小遣い稼ぎ。使い古しの靴下、下着、作業靴……さすが変態の国・日本。ニッチでミクロな変態の世界の需要に対応できる供給元が無限にあるんだなぁと、ちょっと気持ち悪くなりながら読んだ。性がお金に変わるのは若いうちだけじゃないんだな。

 私はただ性産業とその業界に普通以上に興味があるだけの一般的なOLである。ただ、その普通のOLになるまでには片親での生活、奨学金の利用と返済、家庭崩壊に近しい状態や自分自身も気を病んだこともあった。本当に、書籍に出てくる女の子たちと自分自身は他人事でありながらも、どうも心にひりつくものをいつも感じてしまう。「こうならなくて良かった」という優越感にも似た感情もある、「他人事じゃなくて、自分にもすぐ起こりうる事」という危機感もある。中村淳彦さんの書籍は、他人の人生と苦悩に触れて自分の醜さとすぐそばにある危機と、目の届かないところにある哀しさを知る。

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