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12.18 東京駅完成記念日

初めて出来たボーイフレンドと
初めての待ち合わせをしたのは
赤煉瓦の東京駅だった

電車を乗り継ぎ
初めて東京駅に降り立った
十九歳の冬

あたりはきちんとした大人の人ばかりに見えて
学生だった私は自分の赤いダッフルコートが恥ずかしくて仕方なかった

二十分も早くついた私は
丸の内駅舎のドームの下で
手に息を吐きかけながら彼を待っていた

ドームに取り付けられた美しいレリーフを見ているだけで
夢見る少女には待ち合わせが
まるでお伽話の始まりに思えた

北から来た私は
東京は暖かいものだと勝手に思いこんでいたから
息が白くなることなんて無いと思っていたけれど
東京も故郷と同じくらいに寒くて
いくらでも口から白い息が出てくるので驚いた

東京は
人は冷たく
街は汚く
無機質で都会的な箱なのだと思っていた

そんな街ではじめての恋をした

相手は東京の男の子
彼は冷たくなんてなかった
私の周りに現れる都会の人は皆優しかった

電車が着いたのか
一斉に人々が改札をくぐりはじめた

急ぎ足で彼が近づいてくる気配がしたけれど
私は気づかないふりをしてそっと前髪を直した

あれから三十五年
綺麗になった赤煉瓦の東京駅を眺めながら
時の流れを目尻の皺に刻んで今も彼と歩いている私

彼は私の旦那さんになった
今でも彼は優しく
相変わらず都会の冬は寒い

12.18 東京駅完成記念日
#小説 #東京駅完成記念日 #丸の内 #JAM365 #日めくりノベル

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