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1.10 110番の日

電話番の犬のおまわりさんは、机の上に頬杖をついて、うたた寝をしそうなほどに長閑な午後を過ごしていた。
昨日はペンギンの赤ちゃんが岩の間に挟まったとか、迷子の迷子の子猫ちゃんを家に送り届けてほしいとか、リスのおばあちゃんが埋めたどんぐりを探しに行って行方不明になったとかで、朝から電話が鳴りっぱなしだった。
しかし、うって変わって今日は穏やかである。
犬のおまわりさんはマグカップに入れて温めたミルクを啜りながらぼんやりと外を眺めた。
まだ雪が降っている。
外を走る犬の子供たちの声が聞こえてきて、犬のおまわりさんの尻尾も反射的にぶんぶんと揺れた。
どうも雪というのは、犬たちの心をときめかせるのだ。
それを熱弁したところ、同級生の猫の女の子はツンとした表情で「何言ってるか分かんないワ」と冷たく言い放った。
貶されているのになんだか素敵な視線に胸がときめいたのを覚えている。
犬のおまわりさんは、好きな相手は無条件に好きなのだ。
もしかするとそれも犬の特性なのかもしれない。

「しかし、暇だなあ〜」
犬のおまわりさんは、日報の端の方に骨の絵を描いて時間を潰した。
パトロールにでも出かけられたらいいのだが、今週は電話番の任務なので仕方がない。
「でも、こうもあたたかいと眠くなっちゃうよなあ〜」
落書きの骨はあっという間に七本になった。
犬のおまわりさんは、自宅で子供が産まれたばかりだ。
七匹の子犬たちが朝から晩までキャンキャンキャキャンと鳴くので、犬のおまわりさんはなかなかに睡眠不足なのである。
うっかりうとうとと船を漕ぎ始め、鼻が日報に付くほどに傾いてようやく「いかんいかん!」と頭を振るが、いくら頭を激しく振っても半分ほども目が覚めない。
数度繰り返すうちに、漕ぎだした船は港を抜けて大海原へと旅立ってしまった。
電話の鳴らぬ静かな午後である。
犬のおまわりさんは、大海原のど真ん中で小さな船の上に寝転びながら、それはそれはにっこりと笑っていた。
「平和だなあ〜。素敵だなあ〜」
困っている者などいない方がいいというのが犬のおまわりさんの持論だ。
電話番は暇な方がいいのだ。

こうして犬のおまわりさんは、ストーブであたたまった部屋で本格的に居眠りを始めた。
きっと今日は、就業のチャイムが鳴るまで目覚めることはないだろう。
そして、電話は来ないだろう。
それはそれは平和な午後である。

1.10 110番の日

#小説 #JAM365 #110の日 #犬のおまわりさん #

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