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6.20 ペパーミントデー

 北海道のお土産だと言って里見くんがくれたのは、六花亭のバターサンドでも、ロイズのチョコレートでも、じゃがポックルでもなく、きれいな薄緑のキャップをかぶった透明な瓶だった。
「これは、一体?」
 私が素直に首をかしげると、里見君はあいかわらずのサブカル系男子的なぱっつん前髪を直しながら私と同じ方向に首をかしげた。
「知らない?」
「知らないなあ」
 里見君は何が入ってるのか分からないくらい小さなスポーツバッグから私の手元にあるのと同じ瓶を取り出した。
 そしてキャップを外すとシュッとひと吹きスプレーをする。
「わわっ」
 突然緑のスーッとした香りが二人を包んで私はびっくりした。
 里見君は得意げに鼻の下を人差し指でこすると、ひとつくしゃみをした。
「北見の薄荷スプレー、結構有名なんだよ。リフレッシュになるし、バニラアイスや紅茶に少し入れてもいい。天然成分だから身体にいいよ。あ、それと」
 ちょっとためらいがちに俯いたのでその先を催促する。
「それと?」
「虫よけにもなるんだってさ」
 そう言って里見君はもう一度私の頭上に薄荷のシャワーを降らせた。
「どういう意味?」なんて聞けずに、すぐに話を逸らしてしまったのが悔やまれる。
 そのあと少し雑談をしている間、二人を包む空気は空気はミントの味がした。
 
「あー、好きだ。駄目だ。やっぱり好きだなあ」
 家に帰ると、着替えもせずにベットに倒れこんでゴロゴロと転がった。
 楽しくて浮かれた気持ちを、手洗いうがいや着替えなどでリセットしたくなかった。
「天然成分だから、身体にいいよ。だってー、ほんとオシャレ。あー好きー」
 枕をぎゅっと握りしめて溢れだしそうな想いを留める。
 身体の中の沸点が低くなるようなこの感じが私はたまらなく好きだ。
 小さな瓶を割れないようにそっとワンピースのポケットから取り出し、美しい透明な液を眺める。
「どうやって作るんだろう。すごいなあ」
 キュポンッと小気味のいい音を立ててキャップを外す。その時私は里見君とシンクロする気持ちになっていた。
 ひと吹きで変わる世界。
 清涼感のある、そしてどこか少し甘いミントの香りが私に切ない喜びをもたらす。
「大事に使おう。無くなったら泣いちゃうから」
 薄荷の香りを恋の香りにしてくれるなんて、里見君は本当にお洒落で素敵なのだ。

6.20 ペパーミントデ―
#小説 #ペパーミントデー #薄荷 #薄荷スプレー #ミント味 #JAM365 #日めくりノベル

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