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12.10 アロエヨーグルトの日

Q.綺麗の秘密はなんですか?
A.そうですね。特にこれといって無いんですけど、あえて言えばアロエヨーグルトは毎日食べてますね。
Q.どんな効果があるんですか?
A.個人的な感想ですけど、お肌がプルプルになる気がします。
Q.アロエだけに(笑)
A.ですね(笑)

「だって!ちょっと、私もきょうから毎日アロエヨーグルト食べるわ。何ならアロエヨーグルトだけ食べ続けてもいいな!」
ストーブの消えた放課後の教室。
向かい合わせた机の向こう側で雑誌を読んでいた瑠璃が突然叫んだ。
僕は、マスクの隙間から漏れたため息で曇った眼鏡を外しながらかじかんだ手で日誌を書いていた。
「やめときなよ。瑠璃はいつも極端なんだ。いつだっけ?リンゴダイエットとか言って栄養失調になったの。それに、何だよその無責任な(笑)って」
三時間目は数学だった。何をやったか思い出せない。受験勉強の苦手科目を隠れて復習していたためだ。
「ねぇ、数学って何やったっけ」
「私が覚えてるわけないじゃん。学年一二を争うバカだよ?寝てたっつーの」
あはは、と大口を開けて笑うと、瑠璃はニヤニヤしながらまた雑誌に目を落とした。相当気に入っているらしい。
「そんなんばっかり読んでないでさ、勉強したら?おばさんも心配してるだろ」
瑠璃の家は三年前に母子家庭になった。優しそうだったおじさんが何をしたのかは分からないけど、離婚してどこか遠くの街に行ったらしい。
それからというもの瑠璃は優しい顔で笑わなくなったし、勉強もしなくなった。
「どうだろ。頭良くなったら金かかるじゃん。バカで可愛い方が得なんじゃない?」
瑠璃は雑誌で笑顔を振りまく杏奈という女優の赤い口紅を指先でなぞった。
「僕は、その女優より今の瑠璃の方がいいと思うよ」
書き終えた日誌を閉じて、シャープペンシルを片付けて立ち上がった。
瑠璃は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で僕を見上げている。
「ん?」
「ん?」
僕はリュックを背負い、机に置いていた眼鏡をかけ直した。
「あ、あぁー。眼鏡外したからね」
瑠璃が焦った様子でかきあげた髪の一筋が頬に落ちた。眼鏡をかけても、別に僕の見解は変わらなかったけど黙っていた。
「ほら。寒いから帰ろ。帰りに買ってやるから」
「え?何を?」
「アロエヨーグルト。…一個だけだけど」
先に教室を出ると、慌てて机を片付ける音が聞こえてほっとした。
「ん?ほっと、って何だよ」
曇る窓硝子の向こうから野球部の部活の声が響く廊下を、僕は出来るだけ早足で歩き出した。

12.10 アロエヨーグルトの日
#小説 #アロエヨーグルトの日 #JAM365 #日めくりノベル

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