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1.17 今月今夜の月の日・おむすびの日

今夜は空に厚い雲がかかっていて月も星も見えない。
僕は学校の宿題を途中で放り投げて外へ出てみた。
星柄のトレーナー一枚では寒くて体が震える。

白い息を吐きながら空を見上げてみたが、家の周りの針葉樹の森が頑張って曇天を支えているので月が見えないでいた。
でも、針葉樹たちが頑張ってくれなければあの重苦しい灰色の雲が家を潰してしまうかもしれないと思うと、僕は心の中でけなげな針葉樹たちに感謝せざるをえなかった。
「おーい、おーい、お月様やーい。おにぎりあげるから出てきておくれ」
僕は母が作った夜食のおにぎりの載った皿を空に掲げて見せた。
それでも空から返事はない。
「おーい、おーい、お月様やーい。今日はあんたの好きな梅干しのおにぎりだよ。丸くて酸っぱい梅干しのおにぎりだよ。早く出ておいでー」
僕が叫ぶと、厚い雲の向こうからゴロゴロと雷のような音が聞こえた。
「今夜は雲の壁が厚くて出られない。無念なり。無念なり」
綿を間に挟んだようなくぐもった声が聞こえてきた。
「お月様が食べないのなら僕が食べてしまうぞ。出てこいよー」
一層大きな声で僕が呼びかけても、それから声は聞こえなかった。
雲の厚みが増していき、今にも針葉樹の森はぺったんこに潰されてしまいそうだ。
「なんだい。今夜はダメか」
僕は低くなった雲の天井の下で、梅干しのおにぎりにかぶりついた。
するとお月様の涙のように、空からは細かい雪が降り出したのだった。

1.17 今月今夜の月の日、おむすびの日
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