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12.9 国際腐敗防止デー

「頼む。君にしか出来ないことなんだ」
薄暗い商品管理倉庫で、リス山リス助は涙目で尻尾を膨らまし、ぷるぷると震えて俯いていた。
リス田部長の目を見たら、リス助はNOと言うことは出来ないと思ったからだ。
「この数字が表に出てしまったら、我がリス園株式会社の信用は地に落ちてしまうんだよ」
商品品質管理部のリス助は、良かれと思い一人で行った倉庫の整理中にたまたま偶然リス園株式会社の不正に気づいてしまった。
リス園株式会社では、新ドングリと称して良く採れた年の古ドングリを混ぜて販売していたのだ。
「で、でも。今年はドングリが豊作でしたし、古いドングリを混ぜなくても…」
リス助が消え入りそうに震える声で訴えると、リス助の周りをくるくると回って圧力をかけていたリス田部長が背後でぴたりと止まった。
そして、長い爪の両手をリス助の肩にのせると生温かい息を吐きかけながら耳元でこう囁いた。
「リス助くん。ドングリは、自然の恵みだ。自然の恵みは、いつも安定して供給され続けるとは限らないのは小学生でも分かるよね」
つまり、今年豊作だった分は先々の古ドングリとして不作の年に混ぜていくということだ。
「だからって、ぼ、ぼぼ僕に、数字を改ざんしろと言うのですか」
「リス助君は、故郷のお母さんに毎月たくさんドングリを送っているそうだね。本当に偉いね。でも、ドングリが送れなくなったら、お母さんは何を食べて生きるのかなぁ」
リス助は、手をぎゅうっと握りしめて、ついにはポロポロと涙をこぼしはじめた。
「あとは君に任せるよ。くれぐれも後悔の無い選択をしてくれたまえ」
リス田部長はにっこりと笑うと、商品倉庫を出ていった。
リス助は、膨らみやまない尻尾を抱きしめてぷるぷると震えながら冷たい床に泣き崩れた。

12.9 国際腐敗防止デー
#小説 #国際腐敗防止デー #JAM365 #日めくりノベル

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