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1.31 愛妻家の日・五つ子誕生の日

今日は記念日でもないのにプリンを買って帰ることにした。
自分が食べたいということもあるが、一番は僕が妻を愛しているからだ。
僕は妻に何でも与えてあげたいと思っている。
重いプリンの瓶の入った箱を胸に抱えて電車に乗った。
人に当たってプリンがぐちゃぐちゃになってはいけない。
美しいプリンを食べさせてあげたい。
だんだんと電車が混みはじめてきた。僕は肘を出来るだけ両側に開いてプリンの箱を守った。
僕のことは明日好きなだけ押しつぶしてくれて構わない。でも今日だけは幅を取らせてほしい。
周りの冷たい視線にも耐えて、僕はなんとか最寄駅までたどり着いた。
改札の外に出て、ハンカチで汗を拭く。
あとはプリンが温くなる前に家にたどり着けば僕の勝ちだ。何と戦っているかは分からないが、男は常に何かと戦っている時が一番力を発揮するのだ。
それが愛する人のためであれば尚更である。
日の暮れた商店街を早足で歩く。
家にたどり着き、チャイムを鳴らしてから玄関扉を開けた。
「ただいま、帰ったよ」
リビングのドアが勢いよく開いて、五発の鉄砲玉が飛んできた。
それは可愛い僕の五つ子だ。
「父さんお帰り!」
「おかえり父さん!」
「ケーキ?シュークリーム?」
靴を脱ごうとする僕の手足に絡まったり、箱を揺すってみたりする。
「今日はプリンだ。7つあるからみんなで食べよう」
わいわいと騒ぎながら五つ子がプリンを運んで行った。
僕がリビングに入る頃にはもう箱は解体されそれぞれにプリンを頬張っていたのでつい苦笑してしまった。
「おかえりなさい。プリンありがとう」
愛しの妻が少し疲れた顔で笑う。一人相手でも大変だろうに、五つ子ともなれば相当だ。
「ただいま、美味しい?」
妻が頷くのを見たら、僕はお腹いっぱいになれた。
さっさと食べ終えた三男が妻のプリンを欲しがって、妻は半分を三男に渡した。
なんて優しい人なのだろう。僕はこの人を妻にしたことを未だに毎日喜んでいる。単純かもしれないけれど、それくらい素敵な人だ。
五つ子達が妻のプリンを取り合って僕の分まで食べようとしたので慌てて冷蔵庫の中に隠した。
これは五つ子が寝静まったあとで妻にあげるプリンになったのだ。
子供も可愛いが、一番は妻なのである。
僕はもう、甘いものはお腹いっぱいなので大丈夫です。
騒がしいリビングを妻の疲れた微笑みが包み込んでやまない。
その疲れに今日も多分たくさん叱ったあとなのだろうなと想像する。
ありがとう、僕の奥さん。

1.31 愛妻家の日、五つ子誕生の日
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