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8.20 交通信号設置記念日

せっかく行ったのに、名簿には名前が載っていなかった。
名簿に載っていない人間は、仲間に入れないのだという。何故だろうか。どこの名簿になら自分の名前が載っているのだろう。
ターコイズブルーに染めた爪の、人差し指の先が少し欠けている。気がつかなかった。いつぶつけてしまったのだろう。赤信号で立ち止まったが、車なんて一台も通らない。
何分待っても信号は黙って赤を示していた。仕方なく銀色の硬貨を一枚入れて自動販売機で買ったレモン水を飲んで待つことにした。レモンの味なんて一つもしない甘い水。
飲み干して気がつけば四方八方を信号機に囲まれている。全ての信号機は赤。足元から十字に伸びる白い梯子を渡る権利が今はない。
そのまま夜になった。仕方がないので白い梯子を信号機に立てかけて昇る。赤い硝子を回して外すと眩しい光に目がくらんだ。慌てて山の向こうからぽっかりと浮かんだ黄色の月を嵌めてみる。柔らかな光にほっと胸をなでおろす。夜空の星たちは迷惑そうに抗議をしていたが、本当に仕方がないのだ。赤信号では渡れないのだから。
地面に降りると梯子を冷えたアスファルトに元通り戻し、気をつけてゆっくりと黄色信号を渡った。渡り終えても、やはり車なんて一台も通りはしなかった。

820・交通信号設置記念日
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