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1.26 携帯アプリの日

チェックボックスに印をつけると、私は珈琲を淹れるために席を立った。
自宅で仕事をしているので、作業ペースは自分で管理しなければいけない。
愛猫に監視されてはいるものの、拘束力は無いばかりかついつい構ってしまうのでマネージャーとしての力は弱い。
「ミーちゃん、は寝てるのか」
せっかく一つ作業が終わって一息つけるのに、癒しの対象はソファに置いたブランケットの上で腹を出しながら丸まっていた。
「ふわー、今日は一日ずっと雪かな。お夕飯どうしよ」
肩を回しながら珈琲豆を全自動コーヒーメーカーにセットして、マンションの窓の外を眺める。
大きな羽根みたいな雪が上から下へ流れていく。
「洗濯、は乾燥まで終わってるはず。今日畳むとこまで出来るかな。あールンバちゃんのスイッチ入れとかないとミーちゃんの毛が」
頭の中でタスクを確認し、手元の携帯アプリに入力していく。
今日分のチェックボックスが埋まっているのはまだ三分の一。壁掛け時計に目をやれば、もう午後三時だ。
「これは夜中までかかるかなー?」
画面を睨みつけていると、背後で湯が沸く音がして珈琲のいい香りが漂ってきた。
とりあえず一瞬だけ頭をクリアにして、香ばしく少し酸っぱいキリマンジャロの香りを胸いっぱいに吸い込んでみる。
お気に入りのマグカップに珈琲を注ぐと、携帯のアラームアプリが鳴った。
「よっし次、次!頑張っちゃう自分も嫌いじゃないぞと」
15分間隔でかけているアラームを止めて、一つ伸びをする。
この方法をあみだしたのは最近だが、私の集中力が続くのは15分までと気づいたので、15分スパンでいくつかの仕事や休憩を繰り返すと不思議と量がこなせるのだ。
スマートフォンをポケットに入れ、マグカップを持って仕事机に向かう途中に思い出して冷蔵庫を開けた。
「栄養補給も大事っと」
取引先からいただいた高級プリンを取り出してにやにやする。
これで休憩時間15分延長は確定だ。
降り続く雪に埋もれるマンションで、眠る猫を眺めながら珈琲を飲みプリンを食べる幸せ。
「いいじゃんいいじゃん。幸せのために仕事してるんだもん」
甘い自分を叱咤するのは、携帯アプリの役目と決まっている。
次に鳴るまでは幸せの時間。
今日もタッグを組みながらタスクをこなし、私は人生のコマを進めている。

1.26 携帯アプリの日
#小説 #携帯アプリの日 #JAM365 #日めくりノベル

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