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3.1 マーチの日

ぽわりと桃色の花が雨の窓に滲んでいる。
私は、空気がなんだかそわそわして落ち着かない教室の後ろの方の席で、雨の降る裏校庭の梅の木を見るともなしに眺めていた。
「はーい、じゃあそろそろ体育館に移動するぞー、出席番号順に並べー」
担任の先生が教室に入ってきて、私たちを廊下に並ばせはじめた。
「内海さん、行こ」
特に仲良くもないクラスメイトが、ぼんやり外を見たまま動かない私のことを心配して急かした。
「あ、どうも」
タイミングの悪いことに、中廊下から胸に白い花をつけた先輩たちの列が見えた。
きっと彼女たちは晴れ晴れしい気持ちで列に並んでいるのだろうが、何人かはもう涙を浮かべたり肩を抱き合ったりしていて、私にはまるで葬列のように見えた。
たぶん、冷たい横顔で雨に打たれる中庭の梅の花を睨みつけている矢水先輩のせいだろう。
彼女に喜んで卒業していって欲しくないという、私の歪んだ願望が彼女たちの胸の花をより白く萎れさせて見せている。
私のものにならないのなら、静かに悲しみながら消えてください。
体育館の四角い箱に吸い込まれていった矢水先輩の後ろ姿を見送ったあと、雨に打たれてしおれる梅の花を見ていたら、手前の窓ガラスに映る雨滴のスクリーンに私のなんとも冴えない顔が逆さに浮かんでいて、私は今すぐにでもその窓ガラスを拳で粉々になりたくなった。
先輩おめでとうございます。
卒業おめでとうございます。
粉々になった桃色の心臓を、私は体育館の屋根の空にばら撒いた。

3.1 マーチの日
#マーチの日 #卒業 #JAM365 #日めくりノベル #桃色

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