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1.28 衣類乾燥機の日

ずぶぬれで帰ってきたあなた。
雨に降られたと言っていましたね。
私はまだ生まれたてだったので、まさか雨で濡れた衣類がデビュー戦だなんて思ってもみませんでした。
ズボンには泥はねも付いていたし、厚手の物も薄手の物も全て一緒に詰め込むものだから、泥は落ちなくなったし中途半端に生乾きであなたをがっかりさせてしまいました。
「よし、最大出力で長い時間やってみよう。俺はおまえのことを信じているぞ!」
そんなあなたの言葉に百万馬力の力が出過ぎて、私はあなたのお気に入りのTシャツをそれはそれは小人の服のように小さく縮ませてしまいました。
「ごめんな。俺が悪かったよ。物には限度というものがあるんだな」
私のミスなのに、あなたは優しくそう励ましてくれました。それでも、縮んだTシャツを胸に抱いてランドリールームを出ていくあなたの後ろ姿が寂しそうで、私はこの日の失敗を一生忘れずに注意深く衣類を乾燥させていこうと思ったのです。

あれから一年が経ちました。
あなたはもうTシャツを縮ませたりはしないし、ズボンにはズボンの乾燥時間やモードがあることを学び、私もそれぞれの材質に合った優しさで生地をふわふわにさせられる技術を身につけました。
乾燥が終わりたての洗濯物に顔を埋めて幸せそうに匂いをかぐあなたのことが見たくて、私は毎日修行を積んだのです。
「これはもう、最高の仕上がりだ」
とろけたような顔であなたが言ってくれたので、私は思わず庫内の温度が上がってしまいそうでした。

しかし、そのあとすぐくらいの頃に、私の経験したことのない洗濯物が私の中に入ってきました。
それは柔らかく、あなたのものよりも小さめで、色もピンクや黄色の優しいものです。
私は何だかおもしろくない気持ちになって、出来るだけ出力を上げて必要以上に回転をくわえ、そのちょっと小さめの衣類をさらに小さな衣類に変えてやりました。
ブザーを鳴らして呼んだあなたの顔が青ざめているのを見て、私はなんて馬鹿なことをしてしまったのかと自分を責めましたがもう遅かったのです。
遠くであなたが誰かに必死で謝っている声を聞いて私は耳をふさぎたくなりましたが、聞くよりほかありません。だって私には耳をふさぐ手が無いのですから。
それ以来ちょっと小さめの衣類は私の中に入ることはありませんでした。
私は罪悪感からポンコツになってお払い箱にされてしまいたかったけれど、今日もあなたの衣類を温かくふわふわに乾燥させています。
優しすぎるあなたの元に、また誰か素敵な人が来てくれますように。今度こそあなたの衣類以上に素敵に仕上げて、その人を喜ばせてみせますから。

1.28 衣類乾燥機の日
#小説 #衣類乾燥機の日 #JAM365 #日めくりノベル

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