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10.29 おしぼりの日

おしぼりでヒヨコを作ったって、浮気性のあなたを許す気になんてならない。
こんな大衆居酒屋のボックス席で飲む得体の知れない熱燗なんかじゃ私は酔わない。
「ごめんね」なんて言わないでほしい。どの件について私が怒ってるかなんて考えもしていないくせに。
「許して」なんて首を傾げないでほしい。可愛いのはずるい。
あなたはまだ湯気を立てるおしぼりでペンギンを作って、ヒヨコの隣に置いた。
いつの間にか追加されていたおしぼりで、今度は小さなおばけを作った。可愛いのはずるい。おしぼりのおばけなんて、初めて見たし。ハロウィンを意識しているんだろうか。
あなたはヒヨコとペンギンの間におばけを挟んで並べてみせる。
「みんなも反省しています」なんて、反省してほしいのはおしぼりじゃなくてあなたなのよ。本当に分かってないのかしら。
手酌ですすむ日本酒は、汗と涙の味がする。
きっとまた、許してしまう。私の恋はおばけみたいに、ずっとあなたについてしまうので。
「おかわり」
それでもまだ、あなたの焦る顔が見たいから今夜はまだ許さない。
熱すぎてアルコールが飛び気味の熱燗を飲みながら、冷めたおしぼり人形をゆびでつついていじめてやるの。

10.29 おしぼりの日
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