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9.25 10円カレーの日・主婦休みの日

カレーをもらいに、公園に鍋を持った男たちが並んでいる。
給食着のようなものを着てマスクをした市の職員が、仮設テントのなかにずらりと並び、これまたずらりと並んだ銀色の寸胴を混ぜている。
まったく同じリズムの者もおれば、わざとのようにテレコのリズムの者もおり、おたまの柄が寸胴の側面に当たる音が音楽のようにも聞こえる。
ボーダーのポロシャツを着た四十代の男が、先頭になった。
「お心付けを」
マスクの奥から平坦な声が言った。
男は尻のポケットから30円を取り出し、募金箱に入れた。
「三人分です」
男が空の鍋を差し出すと、そこにきっちり三人分のカレーが注がれた。
「ありがとうございました」
男はぺこりと頭をさげ、鍋を抱えて公園を出て行った。
公園の入り口には、主婦休みの日・カレー配布所(一人前10円也。子供、奥さんの分も忘れずに)と書かれた立て看板がある。
入れ替わり立ち代わり、主婦をお休みされて飯の用意に困った男たちが鍋を持って公園を訪れた。
だれも文句を言う者はなかった。文句を聞かれた者は、カレーが一人前100円になってしまうので、ただむっつりと口を噤んでだだっ広い公園の真ん中で、男たちはカレーの配布列に並ぶのであった。

9.25 10円カレーの日、主婦休みの日
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