落語のまくら、「さんぼう」を現代のコンプラ的にアップデートしようぜ

近年「コンプライアンス」という言葉をよく耳にしますね。
カタカナでいうから分かりづらいですが、簡単に言えば、差別や偏見とか、人を傷つけたり、不快に思わせたりするようなことは、やめようねということですよ。

昔の寄席の世界には「さんぼう」という言葉がありました。「3つのぼう」は寄席に来ないから落語の中で笑いものにしても怒られないというんです。

1つ目が「つんぼう」。いまでは差別用語とされていますので、あまり聞き慣れないという若い方もいるかと思いますが、お耳の不自由な方のことです。耳の聞こえない人ひとは寄席で落語を聴きには来ないだろうというんですが……そういった方本人が寄席に来なくてもお客様方の親類縁者にそういう方がいらっしゃるということもありますし、単純にこういった差別用語を不快に思われるという方も多いでしょう。いまでは「手話落語」というものをされる方もいらっしゃいます。耳の不自由な方は落語のネタにしていいという時代ではありません。

2つ目の「ぼう」は「どろぼう」です。窃盗をなさる方ですね。どろぼうのネタをやって、「おれたちどろぼうのことをバカにするな」と名乗り出てお怒りになる方はまずいないだろう。という理由です。しかしこれも、親類縁者に窃盗をされる方がいる。そういった方のお耳に入れば、ご不快な気持ちになるでしょうし、落語をやる場所も寄席だけに限らず「刑務所慰問」などもあります。どろぼうは落語を聞かない、というのも偏見ですね。

3つ目の「ぼう」は「けちんぼう」です。倹約家の方ですね。そういった方は、他人のくだらない噺を聴くために、お金を払って寄席に行こうなどとは思わないだろうから、いくらネタにしてもいいというのですね。しかしこれも、現代的ではありません。親類縁者にけちんぼうのいる方はともかくとして、今はインターネットで違法にアップロードされた落語の音源をお金を払わずに聴いてやろうという方もいらっしゃいますでしょうから、そういった方にも配慮しなければなりませんし、そういった方は「けちんぼう」のうえに「どろぼう」ですから二重に配慮が必要ですね。

そういったわけで、古い時代のお話を申し上げたいのですが……

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