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青海三丁目 地先の肖像「それぞれの記憶」

2021.07.06 | 森藤

「オランダを思い出す」
平たい土地と、コンテナと、広い道路が広がる外側埋立地で、その人は言った。
その風景がどことなく似ているのだと言う。

まだ都市的マテリアル、ランドマーク、そういったものが少ないこの場所で、コンテナヤードと平たい土地がもうすでに意識の中でどこかに接続する風景であることにはっとした。
私はオランダには訪れたことはないが、埋立地として発展し、大きな港を抱えながら都市とし形成されてきたロッテルダムは、類似した地霊を含んでいるだろうことは想像できる。

その日は雨が降ったり止んだり、梅雨の真ん中で、外側埋立地の一般車道南端の先は薄い水面が続いていた。
晴れていればからりとした白っぽい砂利の広がる土地が、白灰色の空を映す鏡に変わっており、その先に広がる埋め立て途中の海部分との境目が曖昧に見えてくる。

羽田空港の離着陸の飛行機が大きく見える場所であるが、一向に近くを飛ばなかった。
風向きと時間帯で航路が変わっているのだろう、三週間前に訪れた際には、話し声が遮断されるほどの距離を飛んでいたのだが。

その日は新しい道を見つけた。
草むらに覆われた細い道を行くと、突き当たりにはコンクリートの土手があった。
もったりとした波が薄暗がりになりかけた空を映して、その先には青白くなった東京の建物が見えていた。

魚が時折跳ねるのが見える。なめしたような海面を突き破るそれは、海の下にも生き物を抱えていることを知らせてくる。
私たちはただそれぞれに土手に立ち、ゆるい風に吹かれながら東京の街並みを眺めた。
背後には鉄製のスクラップ。

このいつも通りの東京、名前のないゴミでできた東京、そしてたゆたう海。これらを同時に受け取る背反した感覚はなんと名付ければ良いのだろう。

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