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青海三丁目 地先の肖像「広大な庭」

2021.05.30 | 葛

土曜日の昼下がりだったと思う。私たちは、庭師と舞台美術家と品川で落ち合ってから、青海三丁目地先へと向かった。

つい最近も埋立地に行ったばかりだったけれど、強風と雨に翻弄されたあの日とは違って晴れた気持ちの良い日だった。

2人のゲストを迎えての、プライベートな小さなツアー。まず中央防波堤外側埋立地へと向かう。

土日に来るのは初めてだったけれど、コンテナ車など物流トラックで混雑している平日の青海三丁目地先の様子とは、驚くほどに様相が違っていた。

がらんと空いた、真新しい、どこにもつながらない最南端の行き止まりの道路は、緊急事態宣言下の都市に住む人々の一種のオアシスとなっていた。コンテナ車の迂回のための道路が、車を停めてお昼ご飯を食べたり、ただ空を眺めたり、ゆっくり過ごす人たちで、ささやかに賑わう場所になっていた。

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ここで私たちも、車を降りてみた。この場所で降車したのも、初めてだった。一番南の突き当りのフェンスまでいって、フェンスをよじ登ってみる。白っぽい埋立地が、目の前に広がっている。

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平らで、茫漠とした広場のような空間が、そこには広がっていた。

フェンスの上に立った時、何だか久しぶりに解放感を感じた。

この1年半、忘れていた自由を少し取り戻したかのような気持ちになって、この場所が何だかとても愛おしくなった。私は急に元気になってきた。

中央防波堤外側の「最果ての地」とその後私たちが名付けた場所は、そんな場所だった。

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それから、庭師に植生について話を聞きながら、海底トンネルの上の芝生に来た。ここに生えている樹木はロシアンオリーブと言うが、本当のオリーブではないらしい。小さな苗もあちこちに生えていて、種でどんどん増殖しているようだ。庭木としても人気があるらしい。シルバーグリーンの葉は確かに綺麗だ。

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中央防波堤内側埋立地まで更に移動する。あちこちの植生を尋ねながら、庭師も知らない雑草と出くわす。ディルとかフェンネルのような葉の形をした雑草だけど・・・匂いはシナモンのような匂い。齧ってみるけど苦くて食べれるものではない。初夏のこの時期にだけ生える草なのだろうか。

桑の実も沢山採ってから、夢の島公園へと移動する。どうやら舞台美術家は高校時代、この夢の島にある競技場で汗を流していたらしい。

閑散としたヨットハーバーのレストランで、「庭」と「園」の話を聞く。「庭」は平らで大きな空き地、儀式の場であり、「園」は植物の生い茂る場所であり、実は違うものである、とのこと。

この3㎞四方の広大な埋立地は、ゴミを受け入れてできた、「五輪」というイベントをも受け入れる場としての「庭」なのかもしれない。そしてこの「庭」には自生するものと植えたものとが入り乱れて「園」も出来つつあるのかもしれない。・・・そんなことを思った。

「東京の地霊」を描いた歴史家が書いた近代庭園史を、そういえばまだ読んでいなかったけれど、そこではどのように「庭」と「園」が記述されているのだろうか。小川治兵衛にも急に興味がわいて、読んでみようと思った。

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