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無機物


幹線道路にぬいぐるみが落ちている
柵の錆れは朽ちかけのぜんまい
部屋に居座る項垂れた扇風機
灰と茶色い葉を踏みつける
緑を想像して真っ黒に塗りたくり笑む
蒲公英を知らない下された切り身
乾きかけの厚い布
歯を擦り合わせ弦を引き千切る 
見たくない真っ赤な血を拭い泣く
午後の雨で萎れた靴下 
切れかけの電池で片言になる玩具
永遠と聞くと永眠が即座に浮かぶ 
微睡みを眼に宿し真っ青な痛みに手を伸ばす
倉庫の中の山積みの段ボール
空気の抜けた自転車
刹那と共に暦の上をただただ踏みつける
空腹を感じ快方への真っ白な感謝を捧ぐ

この世には無機物な物が有り触れている
壁に掛かった似顔絵は
誰かにとっては無価値な無機物だろう
狭い世界の壁掛けの絵を
わたしたちは宝と呼ぶ
ぐちゃぐちゃの目は綺麗な丸になり
髪が増えて
眉が出来て
鼻が付いて
口が笑って
とても素敵な絵になる
広い世界は知らずとも
狭い世界に幸せが詰まっている
魂とか心とかを有機物だと思っている

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