『背に腹は代えられない』

 参ったなぁ…大学2年生の理沙はつぶやいた。折からの外出自粛で、貴重なバイト先が閉店してしまった。ここのバイトは生活費、学費を稼ぐ、貴重なお店だった。
 学費は何とか払えていたが、月々の家賃がピンチだった。このままではいけないと、新たなバイト先を探すものの、どこも人を雇う余裕なんてない。何とかしなくては!
 風俗も少しは考えた。しかし知らない男性に触られるのは抵抗があった。それ以前に、そもそも風俗自体がご多分に漏れず自粛中。半ば諦めかけていた時、ふいに見たことのないバイトを見つけた。
 そこには「ヘアカットモデルを募集します。撮影をさせていただきますが、高額の報酬をお約束します。」と書かれていた。撮影というところが気になったが、とりあえず話だけでも聞いてみようと、指定された喫茶店に足を運んだ。
 人が髪を切るところを撮影するなんて、いったいどういう人なんだろうと思ったが、案外普通の人が現れた。そこで説明された。
① 髪を切る場所は床屋。もちろんアダルトではないため、髪を切る以外の事は一切しない。
② 今のロングをショートにすれば3万円
③ さらに後ろを刈り上げれば5万円
④ 刈り上げのベリーショートにすれば10万円
⑤ それ以上は応相談
とのことだった。そこで私は質問した。
「このようなDVDは、需要があるのですか?」
「世の中には様々な嗜好の人がいて、女性が髪を切られるのに興奮する人もいます。いわゆる断髪フェチと言います。特にあなたのように、美人で長い髪の人が切られるDVDは、よく売れます。」
「⑤のそれ以上ってなんですか?」
「それはもしお受けになられたら、当日お話しします。」
 

 理沙は考えた。物心ついた頃から、長い髪が好きだった。時々切ったりしたが、一番短くても首筋で揃えたボブだ。その時も少し後悔した。運動部の友達はかなり短く切っていたし、たまにロングの友達がバッサリとショートにしてきたが、私は切ろうとは思わなかった。伸びたら肩下まで切ることを繰り返していた。
 しかし、とにかく今すぐにお金がほしい。髪を切るだけでお金をもらえるチャンスなんて、そうそうないのではないか。ならばやってみようと思い、思い切ってOKした。髪型は迷ったが、最も報酬が高い刈り上げのベリーショートにした。
 ふと思った。刈り上げなら、当然バリカンを使うことになるだろう。バリカンはボブにした時に、襟足のムダ毛を剃るのに使われたが、その時以来、バリカンを使われたことはない。あれが私の髪を刈るなんて、どういう感触なのだろう。
 また、髪を切るのをたくさんの人に見られるのは、なんか恥ずかしい。そもそも何でこんなことに興奮する人たちがいるのだろう?

 撮影の前日は、やはり長い髪が惜しくなった。自分で決めたこととはいえ、少しもったいない。念入りにシャンプー、リンスをした。しばらくはこうしたこともなくなる。
 当日は精いっぱいのおしゃれをし、髪はポニーテールに結って、撮影場所となる床屋に向かった。床屋に入るのはもちろん初めてだ。大きな椅子、独特の匂い。カメラもセットしてある。おもむろにカートを見ると、大きなバリカンがあるのを見て、一瞬怯んだ。美容院にあるバリカンとは違う。あれでこれから髪を切られる…。

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