『レディースの抗争』

 泣く子も黙る「闇連合」は、地域で恐れられたレディースのチームだ。

 ヘッドの沙耶はタイマンで負けたことがない。小さな頃から空手を仕込まれており、重い突き、鋭い蹴りでどんな相手も負かしてきた。

 また、沙耶は仲間想いで情にも厚く、チーム内で困った子がいたら全力で助けていた。沙耶のケンカの強さや人柄に惹かれて、自然と仲間か集まってきた。

 沙耶には一つだけ、周りが愁眉をひそめる性癖があった。それはタイマンで負かした相手の髪を、丸坊主にしてしまうことだった-。

 沙耶がまだ小学生の頃、空手の練習が辛くて逃げ出したことがあった。すぐに捕まり家に帰されると、父親に縁側へ連れて行かれた。
「その甘ったれた根性を叩き直してやる!」と、父親は手に持ったハサミで私の長い髪を切り始めた。床に長い髪が落ちて行った。
「お父さんごめんなさい!もう二度としません。だから許して下さい!!」
「いいや駄目だ。今までそう言って何度も約束を破ってきただろう?それに最近生活態度がだらしない。遅刻はするし授業中も寝ていると聞いたぞ。だから今回限りは許さない。」

 そして今度は手バリカンに持ち替えた。
「バリカン…まさか坊主にするの…?」
「そうだ。我が家の罰は坊主だ。お兄ちゃんもそうだったように、お前も今から坊主にする!」
「坊主なんて嫌!女の子なのにひどいよ!!」
「甘ったれるな!罰に男も女も関係あるか!!!」

 抵抗すると殴られ、手バリカンで頭を刈られた。痛くて辛くて泣き叫んだが、父は手バリカンを止めてくれることはなかった。バリバリと容赦なく刈られ虎刈りにされた。床に散った大量の髪が、坊主にされたことを物語っていた。

 みっともない頭にされ、整えてくるようにと床屋へ行かされた。
「短くしていいんだね?」
「…はい…。」

 カタカタと甲高い音を立てて、今度は大きな電気バリカンが私の頭を刈り始める。短く、青く刈られていく-。

 バリカンで刈られている間、とにかく悔しくて、いつかこの父親を見返してやろうと思った。

 そのためには何よりも強くならなくてはいけない。今まで以上に空手に力を入れた。
 
 しかし復讐するはずの父は、気づくと女を作ってどこかへ消えた。怒りの矛先がなくなり、中学になってからグレ始め、気づくとレディースの総長になっていた。

 徐々に頭角を現していくようになると、他のチームと抗争するようになった。集団で闘うこともあれば、タイマンで雌雄を決することもあった。

 タイマンでは負け無しで、たまに引き分けるぐらいだった。充実した日々を過ごしていた。

 ある日美容院で待っていた時、中学生ぐらいの女の子がロングヘアをバッサリと切られていた。背中まで届く髪が一気に切られ、短めのショートにされると、美容師はバリカンを持った。整えるのかなと思っていたら、下に向かせて襟足にバリカンを当てた。後ろの髪が青々と刈り上げられていく。

 その子は泣いていた。それを見てあの日の記憶が蘇ってきた。父親にバリカンで坊主にされた記憶が-。

 その子の襟足や耳周りは、短く刈り上げられた。運動部にでも入るのだろうか。それとも私みたいに何かの罰でされたのだろうか。

 ゾクゾクしてきた。嫌がる女の子の髪をバッサリ切ったらどれだけ愉快だろうか。…そうだ、喧嘩で負かした相手をいっそのこと丸坊主にしたらどうなるだろう…ワクワクが止まらなかった。いつものように毛先を揃えてもらう間も、ずっとそのことを考えていた。

 そんなある日、タイマンを申し込んできた相手に提案した。
「私に勝てると思っているの?」
「当たり前じゃない!勝てないと思ってやる馬鹿はどこにいるって言うの!?」
「ふふふ、そうよね。ならば一つ賭けをしない?」
「賭け?」
「そう。負けたら一つだけ勝った方の言う事を何でも聞く。」
「何でもって…具体的に何を?」
「まぁ何も体を傷つけようってわけじゃない。屈辱的なことをね。」
「何を考えているの?」
「いいじゃない。あんたは私に勝つ自信があるんでしょ?だったら私に勝って、何か私に好きなことをさせればいいじゃない。」
「分かったわ。何をするか楽しみに考えておくわ。」

 罠にかかった。始めから「髪を賭けて」なんて言えば、断られるに決まっている。まさか彼女は丸坊主にされるとは思わないだろう。あのポニーテールをバッサリ切って丸坊主に出来る。想像するだけで笑みが浮かんできた。

 決闘までの間、私は最近通い出した町の柔道場で技を磨いた。特に寝技を中心に練習した。空手には自信があったが、立ち技なので、相手を倒した後にどう抑え込むかがポイントだからだ。タイマンとなれば、きっと寝技が効いてくる。

 そして決闘の日を迎えた。お互いに立会人として、副総長と2人だけで決闘場所に来ることにした。その約束を守らなければ決闘も無くなると事前に決めていた。

 副総長の朱里に話した。ハサミとバリカンを見せて、負かした相手を丸坊主にすることを。始めは驚いていたが、それは面白いと乗ってくれた。もし抵抗してきたら、朱里が抑えつける手はずにした。
 
 そして決闘が始まった。相手はいきなり気合もろとも突っかかってきたが、軽くいなして正拳突きをみぞおちに入れる。よろめく相手をボコボコに蹴り飛ばし、倒れたところで脇固めを決めた。

 腕をギリギリと絞っていく。
「これ以上やると肩が外れるわよ!まだやる?」
「ま、参りました…。」

 私の圧勝だった。左肩を抑えている彼女に近づき
「さぁ、約束を果たしてもらうわ。何でも言う事を聞くっていうあれよ。」
「な、何をするって言うの…?」
「まぁいいからそこに座って。」

 パイプ椅子に座らせて、朱里がケープをかける。
「さて、これから身の程知らずさんの、断髪式を始めま~す♪」
「だ、断髪式って…!?」
「分かるでしょ?今から生意気なあんたの髪を切るのよ。二度とこの私に挑戦しようなんてバカなことをしないためにね。この長い髪ともお別れよ。」
「イ、イヤ!」逃げようとするが朱里が抑える。
「おっと、あんたも大人しくしていてね。それともあんたもやっていく?」
 この一言でビクッとなった副総長は、その場に固まった。
「往生際が悪いのよ。仮にも総長を名乗るぐらいなら、約束はきちんと果たさないと、下の者に示しがつかないでしょ?」

 朱里からハサミを受け取ると、ポニーテールの結び目にハサミを入れた。ジョキジョキと一気に切った。
「キャー!!」
「騒ぐんじゃないよ!!これからもっと切るんだから、この程度でピーピー言ってちゃだめよ!!」

 ハサミを進めてすっかり短くした。耳は全部出し、後ろも首が見えるぐらいに切り、不格好なショートカットにした。
「も…もういいでしょ…ここまでやったんだから…。」
「そうはいかないわ。お楽しみはこれからよ♪」

 私は手バリカンを持つ。
「それって…?」
「見たことある?これは手バリカンと言ってね。昔のバリカンよ。これから何をやるか分かる?」
「な、何をするって言うの…?」
「バリカンでやることは一つでしょ。」
「ま、まさか…坊主に…するの?」
「せいか~い!ご褒美に丸坊主にしてあげま~す♪」
「そ、それだけはイヤーッ!!」
「はいはい静かにね。動くと怪我するわよ。」
 
 私は手バリカンを彼女の目の前で何度も空切りし、恐怖感をたっぷり与えてから額に入れた。カチカチと動かし、頭のてっぺんまで一気に刈った。
「ギャー!!」たまらず絶叫する彼女。面白い!もっとやってやろう。私は遠慮なくバリカンを進めて行き、前髪を全部坊主にした。落ち武者のようになった。
「ひどい、ひどいよ!女の子の命の髪を…。」
「しょうがないでしょ。『何でも言う事を聞く』ってルールに同意したのはあんたでしょ。」
「でも…でも…」
「じゃあここで止める?落ち武者みたいでもいいの?」
そう言って鏡を見せてやった。絶句し肩を落とす彼女。
「さっ、続けるわよ。」

 耳を折り、横の髪を刈っていく。時折痛さに顔を顰める。横が終わると後ろも十分に刈り込んでいく。

 美容院で見た女の子みたいに、いやそれ以上に嫌がっている。悪魔のような気持ちでほくそ笑んだ。

 短くした黒髪が、手を動かした分だけ刈り取られ、地肌が丸出しになる。なんて楽しいのだろう。頭全体を刈ったところで手バリを置く。
「やっぱり手バリじゃ綺麗に刈れないわ。これで美しい丸坊主に仕上げてあげるからね。」
 そう言って、今度は電気バリカンを持ち出す。
「もうやめて…。」か細い声で言ってくるが、構わず電気バリカンを額から入れる。バリバリと小気味良い音を立て、今刈ったばかりの頭にバリカンを走らせる。手バリは2ミリだが、これは0.5ミリだ。バリカンを離すと青々とした地肌が現れる。手バリとは違った面白さがあった。何度も丁寧に刈り、やがてツルツルの丸坊主が完成した。

「うん、いいわ。あんた頭の形がいいから綺麗よ。」
「こんなことして…覚えいなさい!いつか…いつか復讐してやるから…!!」
「ごめんなさいね。私物覚えが悪いから、明日にはあんたのことなんか忘れているわ。楽しませてくれてありがとう。髪が伸びたらいつでもまた挑戦してきなさい。じゃあね。」

 戦利品とばかりにポニーテールを持ち帰った。触ってみると髪を切った感触やバリカンの振動が蘇り、気づくとアソコに手が伸びていた。言いようのない快感に身体が打ち震えた-。

 一か月後。別のチームがタイマンを申し込んできた。うまく煽り、前回と同じ約束を取り付けた。今回は付き添いの副総長にも同じ条件を飲ませた。

 朱里はもし負けたら私もやられる…とビビッていたが
「負ける?ビビッてんじゃないよ!私が負けるわけないでしょ?いいからバリカンの刃でも研いでおきなさい!!」

 今度の相手は強かった。同じ空手を武器としているため、何発かいい打撃をもらった。間合いにもなかなか入れなかった。だが倒された時に掴んだ砂利を思いっきり相手の目に投げつけて流れが変わった。視界を奪われ初めて隙を見せた相手に怒涛の蹴りをかまし、得意の脇固めを決めた。

 なかなかタップしないため、少しばかりきつく締めあげる。ギリギリという音と悲鳴がこだますると、さすがにタップした。腕を抑えてうずくまる相手を見下ろし
「さあ、約束よ。まずは副総長さん、この椅子に座ってね。」

 何が起こるのか全く分かっていない副総長は、恐々椅子に座る。朱里が笑顔でケープをかける。
「沙耶さん、私がやってもいいですか?一度やってみたくて。」
「いいわ。思う存分やりなさい。」
「な、なにをするの…」
「散髪用のケープをかけたんだから分かるでしょ?断髪式よ。」
「だ、断髪式…?私…髪長くないし…。」
 その子は確かにショートカットだった。
「長くない?まだ切る髪がこんなにあるじゃない!」
「まだ切るって…どうするの…?」
 こうするのよ。朱里は前髪をかき上げて手バリカンを入れた。
「キャー!!な、なにしたの?」
「前髪を刈ってやっただけよ。ほら、見てごらんなさい。」
 鏡を見せると絶叫した。
「髪がない!嘘!!」
「断髪式とはね、丸坊主にすることよ。何でも約束を一つ守るって言ったわよね。」
「そんな…ひどい…。」

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