成田祐輔氏の使い方 日本2020
第2回 学歴に意味はない 成田 悠輔 客員研究員
2020年4月13日 掲載 RIETI
猫にマタタビ、人にガクレキ。そう思われるほど学歴は人間の好物で、この新聞に「○○大学卒」が何回登場するか数えるだけで時間がつぶせそうです。しかし、有名校に入ると人は幸せになるのでしょうか。
Yusuke Narita - CyberAgent Capital画
この疑問の理想的な解消方法は、壮大な社会実験でしょう。子どもを有名校と普通の学校に抽選で入学させ、有名校かどうかで違いが出るかを確かめる実験です。しかし、そんな実験はいくらエビデンス好きの政府でもできません。
その代わりによく用いられるのが、架空の実験に似た状況を現実世界で見つけ出すという方法です。意図せず自然に起きた実験という意味で「自然実験」と呼ばれ、データから因果関係を見つけ出す「因果推論」でよく使われます。
自然実験を使った教育効果の測定は教育学や心理学で20世紀半ばに始まり、1990年代以降、経済学などにも浸透しました。では学校による違いはあったのしょうか。米マサチューセッツ工科大のヨシュア・アングリスト教授らと筆者の共同研究を紹介します。
舞台はシカゴです。この街には入学が難しい有名公立高校が10校ほどあります。これらの学校にギリギリで合格した生徒と、ほんのわずかに点が足りず不合格となった生徒のその後を比べます。ギリギリで受かるか落ちるかは偶然に近いと考える自然実験です。
両者の米国版センター試験の成績を比べたところ、有名校に入っても普通の高校に入っても違いがないことがわかりました。有名校の生徒はその学校のおかげで成績優秀なのではなく、そもそも成績優秀な生徒が有名校に入っているだけ、という残念な結論です。
ニューヨークやボストンの有名公立高、ハーバード大やエール大のような有名私大でも、成績や収入を伸ばす効果は普通の高校・大学と大差ないという研究があります。有名校に入っても学生の未来が明るくなるとは限らないのです。
日本にはこうした分析はありません。データがない、というのが理由(言い訳?)のようです。「わが校の教育には効果あり」と信じてやまない関係者の方はぜひご一報ください。
2020年2月18日 日本経済新聞「やさしい経済学―教育をデータで斬る」に掲載
成田悠輔氏「高齢者は集団自決」発言を“例え話”と笑っていられない理由
窪田順生:ノンフィクションライター ダイヤモンド 2023.1.19 4:15
成田悠輔氏の発言で「尊厳死解禁」に向かうか
イェール大学アシスタント・プロフェッサーの成田悠輔氏の「高齢者は集団自決すれば良い」という発言が批判を浴びている。これに理解を示している人もかなりおり、「尊厳死解禁」へ向けた議論が一気に進んでいく可能性もあるからだ。
ご存じのない方のために事の経緯を説明しよう。成田氏はさまざまなメディアや講演などで、高齢化社会への対応策として高齢者の「集団自決」「集団切腹」を繰り返し主張してきた。例えば、21年12月の『ABEMA Prime』ではこんな持論を展開している。
「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、結局高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないかと……」
その具体的な方法のひとつとして成田氏が挙げているのが「尊厳死」だ。22年1月にNewsPicksで配信された動画でも同様の主張を繰り返して、こんな近未来を予想している。
「安楽死の解禁とか、将来的にあり得る話としては安楽死の強制みたいな話も議論に出てくると思う」
これを受けて、「発言内容の全体を聞くと、納得できる部分はある」「表現は乱暴だが、見解はまとも」など成田氏の考えを支持する声も少なくないのだ。
高齢化が急速に進んで、現役世代の社会保障負担が重くなっている日本では今、「老害」への風当たりが非常に強くなっている。若者世代が貧しいのは、高齢者が社会の第一線に居座り続けているからだ、という「世代交代」を望む声も多い。
そんな高齢者への「ヘイト」が高まっている中で、「米有名大学の経済学者」という極めて権威的なインテリが、「高齢者は集団自決せよ」と主張すれば一気に「尊厳死解禁」議論が進んで、あれよあれよという間に関連法案が通過なんて事態も起こり得る。
「人の命に関わる法律の議論がそんな簡単にホイホイ進むわけないだろ」とあきれる人もいるかもしれない。あるいは、「成田氏は世代交代のメタファーとして集団自決って言っているだけなんだから、そんなに目クジラを立てなくてもいいのでは」と冷笑する人もいるだろう。
ただ、歴史を振り返れば、そうも笑っていられない。
悪法・「優生保護法」はなぜ成立したのか
日本人は「ムード」に流されやすい。社会不安が高まっているところに、権威的な肩書きを持つインテリが溜飲を下げるような主張をすると、それに飛びついて世論が一気に傾くということが、これまでも度々起きている。
それがどんなに過激であっても、どんなに非人道的なものであっても、知識人から「日本の未来のためだ」と説明されると、「そうだ、そうだ」と国民も納得して、法律もサクサクと成立する。
そのわかりやすい例が、「世紀の悪法」として知られる「優生保護法」だ。
1948年に成立したこの法律はその名の通り「優生思想」を色濃く反映しており、「総則」にも「不良な子孫の出生防止」が掲げられていた。そのため、約1万6000人にも上る障害者が不妊手術を強制的に受けさせられた。
終戦から3年、「基本的人権の尊重」を掲げた新憲法が制定された日本で、なぜこんな非人道的な法律がすんなりと認められたのかというと、多くの国民が納得したからだ。
では、なぜ納得していたのかというと、権威的な肩書きを持つインテリたちが繰り返し繰り返し、「日本の未来のため」と主張をしてきたからだ。
以下割愛
成田悠輔氏の広報起用批判受け 内閣広報室、各省庁に「人選慎重に」
2024/3/22 12:38(最終更新 3/22 13:44)
鈴木俊一財務相は22日の参院財政金融委員会で、過去に「高齢者は集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」と発言した経済学者・成田悠輔氏の財務省広報誌への起用が問題視されたことを受け、内閣広報室が18日付で各省庁に、広報活動における人選などの慎重な検討を求めたと明らかにした。
鈴木氏は「発言は常識的に考えて全く不適切だ」と改めて強調した。立憲民主党の勝部賢志氏への答弁。
成田氏の発言を巡っては、岸田文雄首相が15日の参院予算委で「極めて不適切な発言ではないかと感じている」と答弁。財務省が2023年7月に発行した広報誌に成田氏と同省職員の対談記事が掲載されたことについては「起用の経緯は承知していないが、(適切か)確認した上で判断する」と述べていた。
冒頭記事引用
毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20240322/k00/00m/010/143000c
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