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『本が語ること、語らせること』感想文1 はじめに

図書館というのは、つくづく不思議な場所だと思う。

本というのも、つくづく不思議な存在だと思う。

そして『本が語ること、語らせること(以下『本かた』)』の著者である青木海青子さんとその夫である青木真兵さん(人文系私設図書館ルチャ・リブロの青木ご夫妻、以下「おふたり」とあったら、たぶんこのおふたりのこと)もまた、不思議な空気を纏っていると思う。

「オムラヂの革命児」こと青木さんと「マスク」こと海青子さん、そして様々なゲストが織りなす「オムライスラヂオ」のヘビーリスナーである私は、すっかりおふたりに魅了されている。なので、どんな文章を書いても私のフィルターを通している時点でかなりのバイアスがかかっていることを先にお断りしておくのだが、それこそ、そんなことは言うまでもなく、どんなに「客観的」な論考だって少なからず書き手のバイアスがかかっているし、それは決して悪いことではないと私は思っている(そうでなければ色々な人が書く意味がないじゃないか)。

そんな私が、初めて、本になる前の文章を読ませていただく機会をいただいた。本書である。査読と呼ばれるような大層なものではなく、雑感をお伝えする程度のことしかできなかったのだが、海青子さんと同じ「元(組織としての図書館に雇用されていた)司書」として、一読者として、感じたことを少しばかりお伝えした。お伝えしたことに対しても海青子さんがやさしいお返事をくださって、(私がお役に立てたかどうかはさておき)ここでも「司書席での対話」を体感させてもらったのだった。

2022年5月2日(後に知ったのだが、なんと海青子さんのお誕生日だった)に、夕書房さんと海青子さんから本が届いた。

おぉ〜。

完成する前の一部(の修正前)を知る本がかたちになっている。もともと「土着への処方箋」として連載も拝読していたので、自分が読ませてもらった部分以外も知っていたといえば知っていたのだが、なんだか「初めて本づくりに関わらせてもらった」という感慨が深く、じぃんとしてしまった(おこがましい)。
(……と書いて思ったけれど、寄稿で関わらせてもらうのと、こういった関わり方をさせてもらうことは、私の中でずいぶん違うことのようだ。どちらの方が嬉しいと比較するものではなく、どちらも身に余る光栄さがある。嬉々。)

帯文も素敵だ。
本文から抜かれているように見えて、ちょっと違う。

「本を真ん中にすると、自然と心が開放されていく」

(帯)

「本を真ん中にした空間は、自然と人の心を解放していくようです」

(p.3)

帯文は、本を開く前に読む。表紙の景色をバックに、「自然」「心」「開放」が清々しい東吉野の空気を醸し出しているような気さえしてくる。
本文では、司書として「本を真ん中にした空間」にいた海青子さんが利用者さんとの対話の中で感じた状態としての「解放」だからこそ使える言葉だろうし、重たいものを背負ったり、心に閉じ込めたりしていた自分を解き放つように話し始めるという情景がありありと浮かぶ。自分もそうだなぁという想いと、当店が今後もう一歩先へ進む視点をいただいたようにも思う。

また、もともとの企画である「土着への処方箋」でおふたりがされていたことでもあり、海青子さんが日頃からレファレンスの一環としてされていた本の紹介について、

「お客さんの問題意識に触れると、私の脳内の書架にいつもとは違った方向から光が当たり、忘れかけていた記憶をすくい上げることができるようになるのです」

(p.4)

と書かれていた。ファンタジックなイメージが再生されると同時に脱帽した。司書の鑑である。尊敬の念を抱き直すとともに、それは「対話」の効能かもしれない、と思い至った。司書である海青子さんだけでなく利用者さんも、海青子さんと対話し、ルチャ・リブロの蔵書と対話することで、いつもと違った方向から光が当たり、自分の記憶だったり気持ちだったりをすくい上げられるようになるのかもしれない。「司書席での対話」まさに。

ルチャ・リブロのおふたりのスタンスとして、「行ったり来たり」や「程度の問題」というキーワードがある。二元論的に物事が捉えられがちな昨今にあって、どちらも否定しない、という姿勢は、限りなく優しい。だからこそ、おふたりの周りにいる人々は誰もが無理をせずにいられるのではないかと思う。
(だからといって、なんでもかんでも「いい」とする訳ではないところが、絶妙なバランスである。だからオムラヂはたまらないのだ。)

ルチャ・リブロの図書館としての部分が前面に出てくる『本かた』が語ることを読み、そこから語らせてくれることを、つらつらと書き連ねていきたいと思う。自分が何を語らされてしまうのか、我ながら楽しみになってきた。行き先の見えない、拙い読書感想文だが、お付き合いいただけると幸いである。

お手元で『本かた』をひらきながらお読みいただけると、「たしかに!」や「そうかなぁ?」という自分との対話も捗ると思われますので、是非↓↓↓


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