見出し画像

障がいのある人が描く文字や絵柄をフォント・パターン化した パブリックデータ 「シブヤフォント」

2020年度のシブヤフォントは「ソーシャルプロダクツ・アワード2021」最高位の大賞のほか「IAUD国際デザイン賞」金賞、「東急グループ環境・社会貢献賞」受賞など各方面で高い評価いただいた。昨年度以前のも含めると「グッドデザイン賞」など累計6つのアワードを受賞したことになる。

このシブヤフォントの活動を振り返る記事を「国際ユニヴァーサルデザイン協議会」に依頼されたのだが、ここに同誌では書ききれなかったことを加筆し、掲載したい。

更新 2021.6.16

スクリーンショット 2021-02-20 9.16.02

概略

2016年、渋谷区長の「渋谷土産を作ろう」という呼びかけの下、同区の障がい者支援事業所と桑沢デザイン研究所の学生による連携で生まれたアイデアが「障がい者のある人の文字をフォント化する」だった。

当時、障がい者支援事業所で製造している菓子折、手織製品を渋谷土産にすべきとの声もあった。ただ、本事業に参画する障がい者支援事業所の「フォントならば、より多くの人に使ってもらえる」「福祉の世界で生まれたものをもっと社会に広げたい」という思い、そしてフォントならば、直接 渋谷土産にはならなくとも、その利用が広がる中でいずれ企業採用につながるはずだと考えた。2年目からは、より企業の商品採用を促すべく、障がいのある人のイラスト等を縦横につながるようにデザインした総柄パターンもラインナップに加えていった。

以来4年間の活動を通じて約30社以上の企業に採用され、278万円/年(2019年度)を障がいのある人への工賃として還元することができた。そして2020年には東京都の都内62区市町村の特産品を各1点ずつ選定する「TOKYO GIFTS 62」にシブヤフォント商品が選定されるなど、名実ともに渋谷区を代表する土産と育っている。

特徴

(1)多様な用途を想定した魅力的なラインナップ

画像1

公開しているフォント・パターンは、渋谷土産としての商品採用を促すため、渋谷名所をアレンジしたユニークなパターン(ex 招き猫のようなハチ公、スクランブル交差点に現れた巨人)、そしてファッションへの採用を想定したアーティスティックな総柄パターン、さらにポスター等のキャッチコピーに使いやすい特徴的なフォントなど多様な用途を想定したラインナップとしている。毎年、新データを制作し、2021年度には371種(フォント41種、パターン330種)となった。

(2)公式ホームページで誰でもダウンロードできる

より多くの方々にシブヤフォントの魅力を体験してもらうため、フォントの個人利用に関しては、シブヤフォント公式サイトで無料ダウンロードできるようにしている。また、パターンの個人利用は、ポストカード大の採用には十分な解像度のデータをワンコインでダウンロードできるようにしている。(商用利用は別途契約し、高解像度データを提供)そして、同データを“渋谷区公認”とすることで、渋谷の理念である「ダイバーシティ&インクルージョン」に共感し、渋谷を応援するシティプライドの醸成にも寄与していると考えている。

(3)ワンストップで利用できるライセンス契約

シブヤフォントのラインナップは90名以上の著作者(障がい者と学生)によって生み出されている。利用するにあたり、著作者と個別に使用許諾契約を締結するのは現実的ではない。よって著作者、障がい者支援事業所、株式会社フクフクプラス(障がい者アートの専門事業者)と連携し、フクフクプラスを窓口としたライセンス契約の一本化を実現、これにより、複数のフォントやパターンの組み合わせであったとしても、ワンストップで契約いただけるものとした。

成果

画像3

(1)採用企業30社以上、商品以外の多彩な利用も

魅力的なデータラインナップ、扱いやすいライセンス契約、そして渋谷区公認であることを評価いただき、グーグル、スズキ自動車、ワールド、マグスタイル、ゴールドウィン、ビームス、NTT都市開発、キヤノン他など30社以上の企業の商品等にご採用いただいた。また各企業における販売拠点の総計は全国30店舗以上を超えるなど、全国どこでもお求めいただけるようになっている。

また商品に限らず、渋谷区役所、渋谷公会堂 LINE CUBE SHIBUYAにおけるサインディスプレイ 、大和ハウス工業の工事現場の仮囲いアート、他渋谷の商店街のチラシ、ポスターなど多種多様なご採用が広がっている。

(2)278万円を障がいのある人への工賃として還元

2019年度、シブヤフォント採用商品は総額2,018万円を売り上げた。その内、障がいのある人へは、278万円を工賃として還元、障がい者支援事業所においては、シブヤフォントにおけるアート活動が仕事として定着し、定期的にアート制作が進められている。

(3)障がいのある人の可能性の発掘と学生の成長

障がい者支援事業所においてアート制作が新たな仕事となっていると同時に、普段の作業ではなかなか能力が発揮できなかった人が、アートによって新たな可能性を見出すことにつながっている。定型の作業ができるかどうかで判断される仕事とは異なり、個性的だからこそ評価されるアートの世界。それが学生の手によってブラッシュアップされ、商品に生まれ変わる。とても大きな自己肯定感の向上と自信につながるものと思う。

また学生にとっても授業では得られない実社会での大いなる学びとなる。普段は学内で閉じたデザインの学びも、シブヤフォントはさまざまな関係者と共同で進める。また最後には企業にプレゼンし、優秀なフォントやパターンには企業賞を授与いただく。こうした学外での社会人との共同プロセスは、学生が大きく成長する貴重な機会となるはずである。そして、商品化されたフォント・パターンは就職活動におけるアピール材料になっている。

(4)ダイバーシティ&インクルージョンの理念を体現する産官学福のつながり

共にフォントやパターンを制作する障がい者支援事業所と学生との交流も大きな成果。限られた交流になりがちな障がい者支援事業所にとり、学生の訪問は新しい刺激を与えているものと思う。また、学生の中には障がい者支援事業所のイベントにプライベートで参加するものもいる。学生にとって、障がいのある人の存在を身近に感じられるなど、ダイバーシティ理解の貴重な機会になっている。

企業にとっても、商品やサービスの魅力向上に加えSDGsの取り組みとしてアピールできる。本事業を主催する渋谷区としても、本データの活用の広がりとともに、ダイバーシティ&インクルージョンの理念への共感の輪が広がり、シティプライドの醸成につながる。産官学福の四方良しの事業として、各方面において高い評価をいただいている。

参加施設:10施設、参加障がい者:50名以上、参加学生:40名以上、採用企業数:30社以上
賞罰:グッドデザイン賞受賞、ソーシャルプロダクツ・アワード2021大賞、IAUD国際デザイン賞金賞、東急グループ環境・社会貢献賞受賞(受賞対象:東急レクリエーション)、桑沢学園賞受賞(受賞対象:桑沢デザイン研究所講師 磯村歩)、日本サインディスプレイ賞受賞(受賞対象:コトブキ)

最後に

障がいのある人のアート活動が着目されるなか、本事業は多様なステークホルダーによるコ・クリエイションの全く新しいアート事業となった。今、各地で本事業をモデルとしたご当地フォント、ご当地パターンに高い関心が寄せられている。そして、海外TV番組で紹介されるなど、渋谷発・日本初の渋谷を象徴する国際的な取り組みに育っている。今後も、この取り組みを何十年と続く事業に育てていくべく、自主運営など新たな運営体制も構築していきたい。

シブヤフォント メンバー


2020年度
ストライドクラブ、はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、むつみ工房、のぞみ作業所、ワークささはた、ワークセンターひかわ、井上 智絵、上栗 優紀、小池 彩果、小池 あゆみ、小林 夏芽、末永 岬、十倉 亜紀子、吉岡 風美、吉野 美瑞紀、山﨑 優、伹川 衛治、濱田 陽介、肥土 夏季、水野 弘子、三谷 万由子、高部 宗太朗、高橋 圭、福島 治、ライラ・カセム、磯村 歩


2019年度
ストライドクラブ、はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、むつみ工房、ワークセンターひかわ、のぞみ作業所、秋本 奈美、岩間 美空、加藤 瑠菜、佐藤 緋里、齋藤 桜、齊藤 小雪、宍倉 花也野、藤倉 千裕、福田 稜子、山口 涼風、水野 藍子、水野 弘子、和田 美月、山﨑 優、伹川 衛治、濱田 陽介、肥土 夏季、福島 治、高橋 圭、中澤 湧、高部 宗太朗、ライラ・カセム、磯村 歩


2018年度
はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、むつみ工房、ワークささはた、ワークセンターひかわ、栗林 里沙、手塚 朋子、長島 萌、鄢 貝羽、福島 治、高橋 圭、中澤 湧、高部 宗太朗、ライラ・カセム、磯村 歩


2017年度
ストライドクラブ、はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、ワークささはた、ワークセンターひかわ、白田 翔、田中 茜里、橋本 葵、平林 麻衣、西塚 音緒、永田 冴、横山 みのり、横山 悠子、岩沢 エリ、小原 和也、雑賀 吉人、田中 慧子、ライラ・カセム、磯村 歩


2016年度
はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、みどり工房、ワークささはた、ワークセンターひかわ、北川 柊、松田 竜太、西 優紀美、山千代 航、斉藤 智徳、眞木 絢未、後藤 和樹、白田 翔、永田 健人、磯村 歩


ご採用企業(順不同)2020年11月時点
グーグル合同会社/株式会社アダストリア/大和ハウス工業株式会社/キヤノン株式会社/株式会社ワールド/株式会社ゴールドウィン/株式会社ビームス/NTT都市開発株式会社/東急株式会社/東急不動産株式会社/株式会社東急レクリエーション/京王電鉄株式会社/京王不動産株式会社/株式会社ジャックス/ジャックス・トータル・サービス株式会社/株式会社マグスタイル/株式会社トランス/株式会社渋谷サービス公社/ニジュウカノ/株式会社フクフクプラス


ご採用商品種(順不同)2020年11月時点
オーダーカスタムスーツ/ネクタイ/サコッシュ/財布/マスク/扇子/折り畳み傘/マグカップ/エコバッグ/トートバッグ/ショルダーバッグ/カードケース/ハンドクリーム/コンパクトミラー/風呂敷/布巾/茶筒/Tシャツ/ステッカー/ポストカード/タオル/ハンカチタオル/缶バッジ/缶マグネット/ぬいぐるみ/ブックカバー/スリッパ/エプロン/各種パッケージ/社内報/ウェブサイト/仮囲い/サインディスプレイ /額装アート/マグカップ/食品パッケージ/ファブリックパネル/ホテルキーチェーン/年賀状テンプレート/オープンフォント/名刺


協力:専門学校桑沢デザイン研究所
主催:渋谷区
事務局:株式会社フクフクプラス


*トップ画像はシブヤフォントの「Shibuya parallel」というパターンを使用しています。ワンコインでダウンロードできます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?