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鈴を持つ者たちの音色  第四十七話 ”鈴集め⑧”

”スズモノ”たちが”過去の世”に行き旅をしている間キックス①②は睡眠や休憩も忘れてひたすら機械と格闘していた。

忘れてはいないか?
”スズモノ”はここにもいる。赤い鈴を持つ2人である。
キックス①②は巡回任務の後、本部の制作倉庫に入り浸りになった。
休憩はご飯を食べる時だけなような気がする。
休憩時間はなくても2人は楽しかった。
こんなにも精巧な部品をいじり、最先端の設備を整えた機械を使い製作活動ができる。
それは職人気質のキックス兄弟には”水を得た魚”
のようだった。

キックス①:「兄き。これを見て。”アイツラ”の腕の中に入っていた。
基盤の裏に文字が書いてある。”ATOYO-T”」

キックス②:「”ATOYO-T”?うーむ‥。何だろう。何か意味がありそうだな。他の部品からも出てくるかも知れないな。注意してみてみよう。とりあえずパソコンで品番を調べてみるよ。
いつもの”世界の発掘大仕事”にアクセスしてみる。ここにアクセスして無いならそれは化石か?思いっきり最新式か?のどちらかだな。」

キックス①②は”アイツラ”の腕の部品をヒントに最新式リアルロボット”ミューマン”の開発をしていた。

設計図はできて、可動部を、より繊細な動きができるようにし、どんな不安定な体勢でも安定する体幹を補強し、全体的に攻撃力のパワーを増すように加備した。そして第二段階を踏んで、
よくありがちな”力”は増したが、スピードが落ちた論の解決を探っていた。

キックス②:「ちとオプション部品が重かったかな?もっと軽い部品にしないと。」

キックス①:「兄い。そこを軽い部品にしちゃうと”この子”みたいに腕取れるよ。関節部は可動する分やはり補強しないと。”この子”がいい例よ。」

キックス②:「うむ。そうだけど、”この子”よりは強く出来ている‥うーん。そうかなぁ。そうだよなぁ。キックス①の言う通りだなぁ。うん。分かった。補強しよう。重さは別の所を軽量化する。」

キックス①:「兄い。何でもそうだけどさぁ。最新の物って便利な機能が沢山あるけど、ほんとにこんなに機能必要かなぁ?」

キックス②:「‥機能?‥おお!まさにそれだ!いらない機能を省こう。新しいようで良く古い。それが”ミューマン”だ。戦い方もシンプルにしよう。」

キックス①:「なんだか機械と言えど人間みたいだな。全てが完璧な人なんていない。なんだか愛着が湧いてきた。」

キックス②:「人情は禁物だぞ。理性を狂わせる。感情が行動を支配してしまうぞ。」

キックス①:「‥それでもいいさ。俺は人間だ。最後まで人間らしくいたい‥。」

キックス②:「‥まぁ。いいさ。今取りかかってあるのは機械だ。”ミューマン”だ。人間ではないからな‥(キックス①の作業中の手が止まっているのに気がついた)お前‥もしや。」

キックス①:「‥そう。せっかく造るなら、”人間”を造りたい‥」

キックス②は焦った。いつも従順な弟が自分の意見を言っている。これはよくない兆候である。
キックス①はあまりにも真剣にリアルロボット製作に励むあまり、待ちきれずに”取り憑かれていた”。

キックス②は副総裁を呼び数日間の休暇を申請した。副総裁は今すぐにでも”ミューマン”の完成に向けて説得するつもりだったが、弟の事情を聞いて、それはまずいと判断した。
キックス兄弟はふたりがいてひとつ。
どちらも欠けては”ミューマン”完成にはありつけなくなってしまう。その最悪な事態だけは避けたかった。

キックス②はキックス①を誘い本部の外へ出た。
キックスコーポレーションにバギー仕様のフォルクワーゲンビートルを準備してもらいドライブへ出掛けた。キャンプ道具も積載してある。
ルーフを特別に切って加工したオープン仕様だった為、走ると風が気持ちよかった。

キックス①:「兄い。風が気持ちいいねぇ。こうやって走らないと感じないもんなぁ。ああ気持ちがいい。この間オートバイを乗って以来だね。あれから何日経つ?」

キックス②:「今日でちょうど2ヶ月ぐらいかな。」

キックス①:「兄い。俺早く戻って”ミューマン”造りたい。造って日に日に”人間”らしくなってゆく”ミューマン”を見ると何とも言えない感情に包まれるんだ。あれはなんだろう。父親ってあんな感じなのだろうか?」

キックス②:「創造主か?この世のものなんでもつくれる。という‥」

キックス①:「そうそう。創造主。俺まさに創造主だな。”ミューマン”を造りあげたら、”ミューマン”を従わせ国の王になるのもいいかもなぁ。あぁ。早く完成すればいいのに。」

キックス②は”これはやばい状況だ”と察した。
完全に頭の中を”ミューマン”に侵されている。
もっと早く気づくべきだった、と悔やんだ。

キックス②:「このマフラー音どうだ?」

キックス①:「あぁ。いいねぇ。ビートルのリアエンジンコンフィギュレーションは駆動する後輪重視だ。排気量をボアアップして大きくしているから、アクセルふかせばウィリーするかもよ。」

キックス②:「やってみる?」

キックス①:「うん。やってやって!」

キックス②:「よし。ゴーグルかけて。シートベルトも!」

ふたり:「いけー!ゴー笑笑」

”グランドライン”には2人だけが知る5キロに渡る直線路があった。段々とその場所に差し掛かる。

キックス①:「兄いー。この場所懐かしいなぁ。」

キックス②:「そうだ。2人で2ケツした直線5キロだ。運転代わるか?」

キックス①:「ああ。この前は兄きがハンドル握っていたから、今度はオレね。」

運転手がキックス①に代わった。
キックス②がシートベルトを付ける「カチャッ」を合図にキックス①はアクセルを踏んだ。
勢いよくバギー車は上体が浮きあがり沈んだかと思ったタイミングで前方に加速する。その瞬間的なGがかかる抵抗感がたまらない。

キックス①:「いやっほーい!」

直線5キロの路は途中に短い1キロぐらいのトンネルに入る。

キックス①は調子にのっている。
その横でキックス②は徐々にいつものキックス①に戻ってきたのを確認した。
やはり弟は製作より”運転”の方が好きなのだ。
この世に乗り物があって本当に救われた。

キックス①の弱点は矛盾しているが、乗り物に取り憑かれることだ。ハンドルを握り耳でエンジン音を聞いているうちに自分が機械の一部の動力部品になって一定リズムで動いて摩耗していると、勘違いしてしまうようだ。結局何においても”ハマりやすい”タイプなようだ。

キックス①は直線路で80キロのスピードを出すと、そのままトンネル内に侵入。上下左右と縦横無尽にバギーカーを操る。

キックス①:「ひょーっほっほー。楽しいー!」

キックス②:「笑いがとまらないー」

その瞬間バギー車が大きな、たんこぶみたいな丸い岩に右前輪タイヤがあたりバギー車はスピードが出ていた為に勢いよくひっくり返った。
オープン仕様になっていたがそこはキックスコーポレーション。ひっくり返ったと同時に運転席が潰されないようにロールオーバー•バーが飛び出して運転手を守った。何回転かして車はひっくり返って止まった。車体はベコベコだ。
ふたりは車から降りて笑いが止まらない。しばらく潰れた車をみて大笑いだ。
1950年製のビートルのボディだ。スペアが無い。ボディは板金し直すが相当な手間だ。
親父のコレクションのひとつをクシャ曲げて帰ったら怒る親父の顔が想像できた。
なお可笑しい。ストレスの反動だろうか。ふたりでこんなに笑ったのは久しぶりだった。

バギー仕様で軽量化されたワーゲンは軽く、ふたりでひっくり返った車両を「せーの」でおこした。
車はエンジンがかかった。
クシャ曲がった車で戻りの一本道を再度80キロで走る。それがまた可笑しかった。

キックス②:「今夜はどこでキャンプしようか?」

キックス①:「前々から行ってみたい所があったんだ。そこにしよう」

キックス②:「お前が行ってみたいって言う所ならあそこしかないな」

キックス①:「そう。ツーホール”γ”-地帯。昔大獣を隠して育てていたという洞窟。いまでは祠と言う。」

キックス②:「はぁ。お前も好きだねぇ。そういう所。」

ふたりは大体の場所に見当をつけ、そこからバギー車を降り歩いて”ツーホール”を探した。
”ツーホール”の場所を探すのは容易い。ここ”グランドライン”には”γ”-地帯は3ヶ所しかなく、そこには小さい時から近づくな。と教えられてきた。大体の想像で場所は特定できた。
ここ”グランドライン”で殆ど光が当たらなく年中通して闇に覆われている場所‥。
ふたりはランタンを持ち”グランドライン”の奥の奥。足場の悪い岩場を降り間口は狭いが入ってしばらく歩くと広く奥まった部屋の様な洞窟を見つけた。

キックス①:「兄い。見て。ここだ。」

キックス①の照らすランタンを追って確かめると一本の細いワイヤーが張ってあり、僕らが持ってきたランタンと同じものが等間隔にぶら下がっていた。逆側も確認してみるとそこにも同じようにランタンが等間隔にぶら下がっていた。

キックス②:「ほんとだ。間違いないな。」

キックス①:「兄い。このランタンもしかしたら、まだ機能するんじゃね?ひとつひとつ振ってみようよ。兄いはそっち側ね。」

お互い左右の壁側に分かれて手前の一つ目を揺すってみた。
「ぽわぁーん」と少しずつチラつきながらだが、灯りはついた。

キックス①:「兄い!みろよ。ついた!ついたよー。」

キックス②:「ああ!ついたな!すごい。というか、まずランタンがすごいな。もしかしたらこのランタン。一生モンかもしれないな。」

キックス①:「そうだね!ここに大獣を隠していたのは親父が若い頃だものね。そしてランタンは”グランドライン”に移り住んでから爺ちゃんと親父で開発した。」

キックス②:「キックスコーポレーションは常に人の為に情熱と、開発心を持っている!」

キックス①:「キックスコーポレーション!万歳」

キックス②:「この調子でランタンを全て灯してみよう。」

ランタンを全て灯してみると洞窟内が思ったより広いことに気づいた。そして灯りの中から当時ここで過ごした人達の面影らしき名残も幾つか発見できた。
穴を掘ったと思われるお手製のハンドスコップ。壁に描かれた暦だと思われる線。
血の跡。ゴミを埋めたと思われる大きな穴。おそらく体から排出するものは臭いがする。洞窟外にあるのだろう。
ここで暮らす?どう見ても退屈そうな環境だった。しかし、大獣はいつ現れてもおかしくはない。退屈な時間と張り詰めた緊張感との真逆な時間をここに居た人はどうやって自らを律したのだろうか?よほどの精神力だ。

キックス①:「ここでお気に入りの車を持ち込んでいじるのなんて最高な環境じゃね?」

キックス①は全くそこまでの思考は持ち合わせてないのか。はじめてお泊まりにきた子供のようにおちゃらける。

キックス②:「さて。食事といこうか。」

洞窟の部屋の真ん中に位置どり簡易的な食事をとる。

キックス①:「なぁ。兄い。オレここへ来たら、今製作中の”ミューマン”の良いアイデアが生まれたんだけど聞く?」

キックス②:「ああ。いいよ。聞きたい。」

キックス①:「”ミューマン”を造りながら常に思っていたんだ。どんなに精巧にがっちり誰にも負けない強いものをつくろうったって、そこには限界がある。機械にはどうしても動力の関係で制限が発生する。完全体にする為に僕らはいつもそのキャパシティの中で格闘している。そこでだ。

制限があるなら誰よりも強い”ミューマン”は造れない。なら、都度外部から取り入れればいい。と思うんだ。パソコンがアップデートするように。」

キックス②:「それは。もしかして‥ここへ来た意味も?」

キックス①:「そう。さすが兄い。僕の気持ちちゃんとわかっているね。感動する。」

キックス②:「大獣を”ミューマン”へアタッチメントするというのか!?」

キックス①:「へへへ。そう。考え的にはね。けれど今はここには大獣はいない。この場所以外にツーホール”γ”-地帯はあと2つある。できることならそこに”いる者”をアタッチメントとして使えばいい。」

キックス②:「‥可能かも知れない‥しかし、問題はある。誰にも抑えられない大獣をどうやってアタッチメントするか‥だな。」

キックス①:「そうなんだ。小さいものでもアタッチメントするには悩みどころ。大獣のような、どデカいガタイを一体どうアタッチメントするか。まぁ、うちらふたりならそのうち良いアイデアも浮かぶと思うんだけどねー。」

キックス②:「そう簡単に行くかよー。笑」

キックス①:「笑。まぁアイデアまではいつも良いんだよなぁ。」

キックス②:「それにしてもお前。24時間”ミューマン”のことばかりだな。少しは頭休ませろ。お前が”ミューマン”にらなっちまうぞ。笑」

キックス①:「そろそろ眠くなったきた。やっぱり場所を変えるといいね。ぐっすり眠れそうだよ。」

キックス②は今日ふたりで息抜きの時間を取れて本当によかったと思った。こうして面と向かって話をする事も久しぶりだった。それがこんな場所だったとしても。

キックス①:「あれ?兄いー。ここに結構いい枕があるよ。程よい高さだ。もうひとつ隣にある。兄いーもこれ使いなよ。」

キックス②:「?枕?おー。ありがとう。俺も使ってみるかなぁ。(キックス②はごろんと横になる)?おいっ。この枕何か変だぞ。」

キックス①:「はぁーん?そう?っていうか眠い。むにゃむにゃ‥」

キックス②:「なんだろう。人肌?なま温かい気が‥。??おいっ!この枕!拍動がするぞ!この間隔‥心音か?」

キックス①:「…むにゃむにゃ」

キックス②は頭の下で打つ拍動が気になって朝まで眠れなかった。朝起きて熟睡明けのキックス①へ伝える。

キックス①:「もしや‥まさかな‥いや‥待てよ。あり得ない、いやあり得る‥うん。あり得る。兄い。大獣の話でこんな話があるの聞いた事あるかい?大獣は生まれるまで何年もかかるって話‥。」

キックス②:「いや。聞いた事ないな。そうなのか?」

キックス①:「興味があってね。聞いた事がある。大獣は身体が大きくなるだろ?だから卵で生まれて殻から出るまで何年もかかるんだって。蝉と同じだね。殻も固いからブチ破る力もつけないと出れない。だから生まれた時から大獣は強い。」

キックス②:「これが大獣の卵だって言いたいのか?」

キックス①:「そう。間違いないと思う。」

キックス②:「げげ!まじか!でもなんで2個ある?」

キックス①:「大獣は一体にひとつ。しか生まれないはず‥双子だったりして?笑」

キックス②:「おいおい。冗談はよせやい。大獣の双子なんて想像もしたくないぞ。そんなのが”グランドライン”で暴れたらひとたまりもないぞ。これ、どーする?いつかは孵化しちまうのか?」

キックス①:「うーん。掘り出して持っていきましょ笑。本当に大獣かどうかわからないけど、もし大獣だったらほっとけない。卵のうちになんとかしないと。」

キックス②:「おまえー!ほんとにそう思ってる?まさかのまさかだけど、おまえー、もしこの卵が本当に大獣だったら、昨日の話ー!ラッキーだと思ってないかー!」

キックス①:「笑。兄いー。そう慌てるなよー。もし、そうだとしても事実アタッチメントできると思うー?」

キックス②:「バカ。ふたりなら何でもできる。って言ってたの誰だ!やる気だろ。お前。」

キックス①:「ふふふふ。とりあえず掘ってみますかぁ。」

キックス②:「なーにが、とりあえずだ。やれやれ。」

本部へ戻ってくるとボコボコにクシャ曲がったバギー車で現れたふたりにキックスコーポレーションの会長が怒りくるってるという話題でその日はもちきりだった。
ふたりの顔は生命を取り戻したかのように生き生きとしていた。
副総裁も一安心だったろう。何しろ”グランドライン”の未来にはこのふたりが必要不可欠なのだから。

キックス①:「兄い。あの卵ちゃん。今孵化しちまったらどうなるんだろう?」

キックス②:「その時はこの本部ごと、ぶっ壊れちゃうでしょ。」

キックス①:「いひひ。やばいね。ドキドキするね。」

キックス②:「バカ!持ってきてしまったじゃないか!あれはあれで早く何とかしないと。」

赤い鈴を持ったふたりは稽古どころじゃない。地球を”グランドライン”を救うだろう”ミューマン”の製作は続く。


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