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鈴を持つ者たちの音色  第四十話 ”洗脳オロシ”

大叔母が本部、特別室に着いた時には”ゲイン”と”Knock”は既に”回収”されていた。
”洗脳オロシ”の前に大叔母と”WO(女)”は一目彼女らを見ようと回収室のガラス越しから表情を伺った。
ふたりは仲良く会話を楽しんでいる。
”洗脳”され”完全体”になった事は自覚していないようだった。
パッと見は変わらずとも、いざスイッチが入れば敵となる。もはや”スパイ”には変わりがない。

大叔母:「よく見ておきなさい。”洗脳”された者の恐ろしさは、そのパッと見の変わらなさ。にある。ああ見えて”完全体”だ。
これが”アイツラ”が考え出した、人の”善”につけ込む恐ろしい”武器”だ。」

WO(女):「…あのコ達は本当に”スパイ”なのですか?私には判別がつきません。」

大叔母:「まぁ。そのうちにわかるさ。さぁ始めるよ。隊長を呼んできて。」

”洗脳オロシ”は必ず本部員の三役(総裁・副総裁・総裁次官)誰かの立ち合いのもと行われる。
一度”スパイ”とみなされた者が再度”グランドライン”にいれるように人権を保つ為にも”洗脳オロシ”は皆が安全に生きていく上で重要な儀式となっている。”オロセル”か”オロセナイ”かで、その者は回収室から出れなくなってしまう。

本部員の警護がぞろぞろと回収室前に集まる。
本部員の1人がガラス越しにインターホンを押しふたりに伝える。

本部員:「これから移動してもらう。ついてこい。」

”ゲイン”と”Knock”の表情が変わる。
回収室のガラス扉が開きふたりが部屋から出る。
両脇には数名の警護がつく。
警護は伸縮式の電気警棒を抱えて誘導する。
”洗脳オロシ”の場所まではL字の通路を曲がって5分の距離だ。

ふたりはL字の通路を曲がった途端、息を合わせたように警護に飛びかかった。
”ゲイン”はL字を曲がった前方へ2人の警護を押し出し、”Knock”はL字を曲がる手前から後方へ2人の警護を引きつけた。
L字角の奥と手前でうまく警護を分割した。それは計算されたものだった。

”ゲイン”は近距離でブーメランを刃物の様に扱い、切りつけてくる。

”Knock”は空間を自在に走り回り、警護の警棒を奪い、警護に電気ショックを与えていく。

あっという間に警護4人を、それぞれ跳ね除け、走り、本部から脱出しようとした。
そこに、そうはさせないと大叔母とWO(女)が立ち塞ぐ。

大叔母:「どちらまで?」

WO(女):「派手にやったわね。」

警棒を持った”Knock”は大叔母へ、ブーメランを器用に回転させた”ゲイン”はWO(女)へ、それぞれ攻撃を仕掛けてきた。

大叔母はヒョイと簡単に警棒を交わし、それと同時に”Knock”の脇腹へ重い右拳を深く打ちこんだ。マスターPの面影がちらつく。それだけ力強い右拳だ。”knock”の体液が揺れる。
ダメージは何日間まで続くぐらいの衝撃波だ。

WO(女)は”ゲイン”の繰り出す刃先を難なく交わして隙を伺う。その攻撃を交わしながら”ゲイン”に同情してしまう。
「なぜ、”アイツラ”は強い人間ではなく、弱い人間を選ぶのか?弱い人間を利用するなんて残酷極まりない。外道のする事だ。許せない。」
WO(女)が怒りを表したとき”ゲイン”の身体の”水の流れ”が何故か透き通って見えた。
「なんだ?この水の流れは?海の潮の流れのように透き通って見える」

大叔母が前に言っていた。
「人にはそれぞれ体内の”水の流れ”というものがある。美しく澄んでいて流れの早い者がいたり、ひどく濁っていて流れの遅いものだっている。
人と組み合う時、その”水の流れ”を意識してご覧。それが意識して出来るようになったら、そりゃ、その人の水の流れ、澱み、勢い、強さ、意識。それらがわかってしまう。」

それを思い出した。
”水の流れ”。
そして自分の腕を見る。 
自分の腕もそうだ。透き通って見える。
水の流れ、勢い、澱み‥
”ゲイン”が次に、どう動くか、水の流れは蛇口を捻るように放出量が”弱”から”強”に変わる。
なるほど。
怒りと攻撃時は水量が増すのか。
WO(女)は”ゲイン”と一戦交えながら、人の動きや感情は、この水の源流を元に網羅されたものだと気付いた。

大叔母:「WO(女)よ。気付いたようだね。よし。コツを教えてやろう。こうやるんだ。」

大叔母は自分の腕を見つめる。
しばらくして大叔母の右腕は青白い放射体に包まれ、その放射体は意思を持ったかのように「ニョロリ」と第三の手として動きだした。
右手の延長線上に、もうひとつ青白い別の”手”がある。
大叔母は”それ”を”グー〜パー、グー〜パー”と慣らす。

大叔母:「”同調”を実体化するんだ。そして彼らの漏れ出している蛇口を閉めてやる。それだけだ。」

大叔母は”Knock”の胸にその”第三の手”を突き入れる。”Knock”は身動きひとつ出来ない。
そして蛇口を捻るような動作をして”第三の手”を”Knock”の胸から抜き出した。
”Knock”は崩れるように床に伏した。

大叔母:「どうだ?やってみろ。」

WO(女)も同じように自分の右腕を睨む。すぐに”同調”を実体化できた。自分でも驚く。
青白い”第三の手”は自分の手のようにちゃんと動かせた。同じように”グー、パー。グー、パー”と動かしてみる。
”ゲイン”と向き合う。
”ゲイン”の胸に”第三の手”を突き入れる。
”ゲイン”の蛇口は見えている。ここを閉じればいいのか。WO(女)は蛇口を閉じるような動作で水の勢いを閉じた。

WO(女):「うまくいきました。」

大叔母:「笑。簡単だろ?これが、”洗脳オロシ”じゃ。」

大叔母:「一度は大地から切り離された”魂毛”でも再生はする。”洗脳”といっても”アイツラ”のしたことは、個体の水の流れを”アイツラ”仕様にいじっただけ。いじる為には大地と繋がった”魂毛”を遮断しないと水の流れは変わらないからね。こうやって一度蛇口を閉めて”魂毛”をもう一度、生やすまで待つんだ。”魂毛”と大地が繋がったら再度、蛇口を開けてやる。」

WO(女):「なるほど。閉めるだけじゃダメなのね。分かった。もし、私らに何かあって蛇口を開ける事ができなかったらどうなるの?」

大叔母:「その時は中途半端に両者が入り乱れたままになってしまう。”善”も”悪”も入ったままの状態になる。それは1番厄介だ。個体も自分の意志ではコントロールできない。二重人格のようになってしまう。」

WO(女):「恐ろしい。それだけは決してあってはならない。」

大叔母:「副総裁や。2人を担いでくれ。根を生やすまで数日かかる。どこかへ寝かせてやってちょうだい。」

副総裁:「はい。わかりました。すぐに。」

大叔母:「今回の”洗脳オロシ”は簡単にいったけど、中には水の流れが見えない時もある。その時は厄介だぞ。もし、”洗脳オロシ”が困難な時は”洗脳オロシ”を中止するんだ。さっき言った”両者が入り乱れた”型にならないように。」

WO(女):「わかりました。」

その時だ。
本部員の数名が叫ぶ。
”腕の持ち主だ!”

副総裁:「また来たか。どうやって入ってきた。」

腕の持ち主:「本部のセキュリティは本当にあまい。もっと強い者をおくべきだ。アドバイスしてやる。」

副総裁:「何しにきた?」

腕の持ち主:「この間忘れ物をしたんでなぁ。もちろん”腕”を取り戻しに来たのさ。”腕”が無いと何かと不便でな。それと、来たついでに僕のお仲間も連れて行こうかなぁ。」

腕の持ち主はそこでギョッとする。

腕の持ち主:「大叔母ぁー。なんでここにいるー!」

大叔母:「お前こそ。逃げまわるのが得意なやつが自分から姿を現しおって。そんなに追いつめられているのかい?」

腕の持ち主:「大叔母がいるとは誤算だった。ここで会ったら最後!」

腕の持ち主は大叔母からは逃げられないと察し、攻撃を、仕掛けてきた。

大叔母:「お前かっ。このコらを”完全体”にしたのは!何年生きても、ろくなことしないな!今日ココで成敗じゃ。」

大叔母の回し蹴りで”腕の持ち主”の顔が外れて飛んだ。外れた顔が床の上を舐めるように喋る。

腕の持ち主:「お年を召しても、この迫力。さすがですねぇ。しかーし、私も長年生きています。頭を使う事も覚えました。よってこんな事もできるのでーす。」

腕の持ち主の顔は眩しいばかりの光を放射した。

皆の目が眩む。

その隙に頭と身体は元通りにくっ付き合う。

腕の持ち主はここぞとばかりにモデルチェンジした。腕が3本になる。
3本の腕は次々と大叔母へ攻撃をしかける。
大叔母はその攻撃を交わすどころか同時にカウンターをしかける。
正拳は”腕の持ち主”のプロテクターを突き破り、強震した。

腕の持ち主は機械人間だ。
体内には”水”が通っていない。
”水”が通っていない分ダメージも少なかった。

相手は何千年も前から製造された機械と言えど、現代より優れた”リアルロボット”闘いにも慣れている。
攻撃の時が最大の防御
防御の時が最大の攻撃
つまり攻撃も防御も繰り出す時が最大の決着ポイントとなる。
それを両者は知っている。

大叔母は”鳥のポーズ”で向かい打つ。
からかっているのだ。

”腕の持ち主”はさっきよりもスピードをあげて拳を繰り出す。

大叔母はチュン。チュン。と拳を指一本で跳ね除け、徐々に間合いを詰める。
「チュン‥」と”腕の持ち主”のオデコに人差し指を押し当て、間合いを詰めながら拾った油性ペンで”ちゅん”とひらがなで描いた。
片脚を上げ、両手を広げ背中を丸めて、ボソリと言う。(鷹のポーズだ)
「雀から鷹の攻撃!」
ズバババ!と”腕の持ち主”はマシンガンで撃たれたように次々と穴だらけになっていく。
人差し指で次々と突かれていく。
電子音と電気のショートする音と光が弾く。
”ズババババー!”
嵐が止むように大叔母の攻撃は静かになった。
”腕の持ち主”も静かになった。

リアルロボットの強みは体内に水がない。
ダメージは大きいが修復はできるだろう。

大叔母:「何千年経っても、人間の心を持たぬロボットはただの機械じゃ。覚えておけ。」

大叔母は副総裁を呼んだ。
大叔母:「こやつをキックス兄弟の元へ届けよ。キックス兄弟なら”うまく”復元するだろう。新しいミューマンとして。」

副総裁:「流石ですね。大叔母は常に先を読む。」

〜リアルロボット製作現場の倉庫〜

キックス兄弟の元へ”腕の持ち主”の”素材”がゴロリ、と届く。

キックス①「…コレって‥」

キックス②「‥ああ。この間来たヤツだ。」

キックス①:「”腕と?”リアルだなぁー。」

キックス②:「いい”素材”だ。コレを超えるぞ。」

キックス①:「ああ。勿論だとも。」

キックス②:「それにしてもこの”素材”。復元コードがしっかりと抜かれている。復元されないように。誰ですか?コレを扱った人は?機械にめっちゃ詳しいはずですよ。」

副総裁は首をかしげた。






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