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鈴を持つ者たちの音色 第四十一話 ”鈴集め⑥”

ME(男)は最近同じような夢を見る。今朝はこうだ。。

「鏡よ鏡。この世で1番美しいのは誰?」と、鏡に問いかけると鏡は答える。
「それは白雪姫よ」と。
もう一度、鏡に問いかけてみる。
「鏡よ鏡。この世で1番愚かなのは誰?」と問うと、声質も変わりドスの効いた声で、
「それは人間よ!この世で1番愚かで恐ろしい!そう言うあなたも人間ね?覚悟しなさい!」

と人間に襲われる夢だ。
その夢を見て、あまりのリアルさに飛び起きてしまう。
夢の内容を振り返ってみて「否定はできないよな」と改めて考える。
地上に住めなくなったのも”アイツラ”のせいだけとは言い難い。
元を辿れば人間がしたことが引き金となっている。そう。僕ら”人間”が。だ。

旅をして何日目になるだろう。
”天路の頂”からテレポートし”GA(我)”をすぐに見つけ出したが、”WA(輪)”が探せない。
隣には”GA(我)”が大きくいびきをかいて眠っている。
ME(男)が迎えに来た時、
”GA(我)”は仏寺で修行中だった。
”GA(我)”の家は代々仏寺家業であり、”GA(我)”は第14代目、後継ぎである。
”グランドライン”にも仏寺は必要で、狭いが、それらしい一画を借り、仏寺として機能していた。
仏壇に祀る仏は和尚が地道に石を削り造作した。
経をあげる時の木魚は手に入らない為、それらしい音がする岩を木魚に見立てて、経をあげた。
ME(男)がテレポートした場所は何故かここ、幽玄寺だった。
経が終わるのを待ち、GA(我)に説明をする。隣で和尚も聞いていた。
世のため人のためになるなら。と和尚も承諾してくれた。ありがたや。
GA(我)にWA(輪)はどこにいるのか?と聞くと、「わからない」と言う。
WA(輪)を狙いテレポートを何度かしたが、どこも外してしまった。

ME(男):「私のテレポート能力がまだ、未熟なのだろうな。」

そう思って困っていたらGA(我)が言う。

GA(我):「‥心あたりがある場所があります。なんとなく‥ですが、そこにいる気がします。」

GA(我)は天を仰ぐように顔を上げ目を瞑り何かを感知したように見えた。

ME(男):「よし。そこに行こうー。」

2人が向かう先は”グランドライン”北側にある”天空の壁”だ。
”天空の壁”はふたりの任務”α”ゴールド地帯でGA(我)とWA(輪)が2人で登った”壁”だ。
”WA(輪)”は本当にそこにいるのか?そして、本当にその場所にいるとして、何故また”天空の壁”にいるのか?意味があるとしか思えなかった。

こうして今、2人で”天空の壁”へ向かっている。
GA(我)の幽玄寺から”天空の壁”までは正反対の位置にあり、南から北へと進路を追えば標高も高くなる。計算された距離のわりに思ったより時間がかかった。
GA(我)がようやく起き出す。

GA(我):「今日で3日目ですね。さすがに今日1日あれば着くでしょう。」
2人で人工ジェルをチューチュー吸いながら今日1日の進路を確認する。
ME(男)はテレポート出来る範囲を広める為に歩きながらひとつひとつの景色をしっかりと頭の中に記憶した。それにしても、なぜWA(輪)がいる場所へ”とべ”ないのか不思議でしょうがない。
もし、これから行く”天空の壁”へWA(輪)がいるとしたら、ME(男)はWA(輪)の顔を知っている。”とべる”はず、なのだ。
それなのに”とべない”というのは、何かしら”天空の壁”にはあるかも知れない。
ME(男)は「油断は禁物だ。」と身構えた。

こうして3日目中に”天空の壁”へ到着した。
目の前に直立した壁は想像よりも大きく、登り辛そうだ。到着地も壁下からは見えない。
GA(我)は本部には言ってなかったこの壁の不思議な体験を一部始終”ME(男)”には伝えていた。

ME(男):「さぁて。やるかぁ。」
ME(男)はクライミングシューズを「(バフンバフン)」させしっかりと片足ずつピッチリ履いた。シューズは何のスポーツにおいてもサイズ選びが肝心である。
クライミングは特に命取りともなる。

GA(我):「まさか。またこうして登る事になるとはね。わからないものです。」

GA(我):「距離感とひと段落休憩を取るタイミングは任せて下さい。計画的にいきましょう。」

ME(男):「分かった。頂上までのペースは君に任せるよ。」

GA(我):「ただ。気になるのが、何日か前に登った時よりも見た目ですが、何となく縦に伸びた気がするのです。こんなに細かったかなぁ?」

ME(男):「えっ?岩壁が成長する?そんなことが現実にあるのか?」

GA(我):「ここは”グランドライン”ですよ。何だってある。もしかして。って事もあります。用心して行きましょう。」

ME(男):「ラジャー」

2人は登りはじめた。
登るという動作はどうしてこんなにも息があがるのだろう?
長距離走というよりは短距離走に近い。
まだ登りはじめなのに筋肉が悲鳴をあげる。
ダメだ。もっと効率よく登らないと。頂上まではもたない。もっと大きな筋肉。下半身だ。下半身をもっと使え。腕なんて小さな筋肉は身体を支えられないぞ。クライミングは腕力じゃない下半身と身体の使い方だ。
苦しいが途中でやめるわけにはいかない。
せっかくここまできたんだ。
やり直すよりは、このまま苦しくても続けた方がまだ楽だ。

GA(我):「一旦ここで休憩しましょう。」
無我夢中に上しか見えてない荒々しく登るME(男)を宥めるようにGA(我)がうまくコントロールする。

ME(男):「どうだ?結構登っただろう。そろそろ半分ってところか?」

水を飲みながら”ME(男)”は言う。

GA(我):「いやいや。全然半分なんて来てませんよ。今で三分の一。ってところですかね。頑張りましょう。」

ME(男):「(ME(男)は愕然とした)人生とは厳しさの連続である。だな。とりあえず笑っとけー。」

ふたり:「そうですね。笑あーはっはっはー!」

高い場所からの笑い声はどこまで、こだましたのだろうか。ふたりの声は遠くへ響いた。

頂上へ近づくと、大海鳥がやってきた。
数日前と同じように重力に逆らうように岩場(壁)に降り立ち羽を休める。

大海鳥:「お前。ほんと懲りないな。数日前は”今日だけですから、なんとか登らせて下さい”と言っていたではないか。
なんで、また登ってきた?」

GA(我):「あちゃちゃ(頭をかきながら)すいません。そうだったのですが‥ちょっと緊急事態で。ですねぇ。この間、私とここを登った女の子、WA(輪)と言うんですが、平地のどこを探してもいないんですよ。それで‥平地にいないなら高地かな?と。それでここまで登ってきました。」

大海鳥:「ほんとに、お前たちって‥最近の若者は皆お前たちのようにバカなのか?人の為にすぐ自分の命をかける。もっと自分の命を大事にしろよ。
WA(輪)なら、もうとっくに頂上だ。
私が上まで運んでやったさ。
女の子なら軽いし肉が柔らかいし大歓迎だ。」

GA(我):「えー!やはり。ここへ来てましたかぁ!良かった。というか、ズルい!WA(輪)だけ運んでやったのですか!」

大海鳥:「ああ。壁下で何やらギャーグワァーうるさいから運んだ。そうそう。あいつ。耳がいいぞ。以前の君と私が話す言葉を、大体耳で覚えていて、おおよそ分かったみたいだ。ギャーグワァーと、運べ運べ。と叫んでいたからなぁ。」

GA(我):「あなた‥女の子に弱いね?ついこの前は、ここを登っただけでギャーグワァーと僕らを殺める勢いだったのにさー。」

GA(我)は大海鳥との会話を端的に要約しME(男)へ伝えた。ME(男)はGA(我)とWA(輪)が大海鳥の言葉が分かるのを知って驚いた。

ME(男):「君たちはおそらく地球上の者、生物の言葉を知る者かも知れないね。これからも、その能力は貴重だ。宜しく頼むよ。」

大海鳥は男を背中に乗せない主義らしい。
GA(我)とME(男)を壁に残して飛び去った。

GA(我):「やはりね。必ずああやって”登る者”を威嚇しにやってくる。この壁の番鳥に間違いないですね。」

ME(男):「この壁は”神聖なる壁”とも言っていたね。さっきの大海鳥の羽の休ませ方は、この壁(岩)の特殊さを見せつけているよ。君が言う通り、この壁(岩)の内側には何かある。」

登りがい、がある壁(岩)とはこのような壁(岩)を言うのだろう。ME(男)は登れば登るほど、胸に躍るような高揚感が湧き上がっていた。
1動作〜1動作の筋肉が疲労を欲している。
重い呼吸が、もっと動け動けと動きを急かす。
ストイックさは、もはやアドレナリンだ。
登れば
登るほど”気持ちがいい”。

ME(男)は気付いた。
これが、手足を触れた鉱石(壁)から出る磁力のような”もの”がそうさせるのを。
ここは”神聖なる頂”であり、壁であり、”神聖なる次元”なのかもしれない。

高揚感に制され頂上に辿り着いた時には、何か”誕生日を忘れた誕生日の日”の様な、自分の存在がどうでもよくなるような空白感があった。
とても楽しい一日が終わってしまった。そんな感じ。。

血豆ができた両指をボーッと眺めていると、GA(我)が教えてくれた。

GA(我):「ME(男)さん。ここです。この扉が入り口です。」

どう見ても違和感を感じる。
白い鳥居が四面囲んでいて、その中に一つの扉がある。
その扉は幾何学模様の扉だ。

ME(男):「幾何学模様?こんな模様。誰が描くんだ?ここは不思議の塊だな。」

GA(我)が数日前にやった、同じように幾何学模様の扉を開けた。開けると前と同じように時空が反転する。

ME(男):「どういうことだ?これは!」

GA(我):「さぁ。中に入りましょう。」

ふたりは扉の中に入った。
眩しい光の中、記憶を”映し出す”…

”グランドライン”に人類がまだ降り立つ前の話だ。
鳥獣同士の争いが続き、”グランドライン”北側の標高が高い壁。今の”天空の壁”のある場所で大獣同士が戦った伝説の一戦があった。
大獣”ウルフ”と鳥獣”バーディング”だ。
大獣”ウルフ”が勝ち、鳥獣は名残惜しく大獣”ウルフ”に仕えた。
大獣”ウルフ”はもはや”グランドライン”の中では敵なしだった。
この時代は”ウルフ期”全盛期とも言える。

そして人間がやってくる。
人間は”グランドライン”の隅々までその活路を広げ鳥獣たちは自ずと隅へ隅へと隠れるように、その身を潜めた。
そんな中、大獣”ウルフ”のいる”天空の壁”にも人間の手が入る。
大獣”ウルフ”は怒った。
場所を譲り、狭き隅へ、その生命の場を退き人間に譲ったのに、人間はその勢力を全生態系の場所へと移動し、奪いとっていった。
大獣”ウルフ”は人間への警告をせざるを得なかった。このままでは人間以外の生物は生きづらくなってしまう。

大獣”ウルフ”は強かった。
人間はそのうち姿を見るだけで逃げ回った。
しかし人間はここでまた、愚かな考えを生み出す。
産まれたての”容器”さえあれば、”ウルフ”を”移せる”…と。
この”移し”の転世技ができる者の名前。それを”リング”と言った。

人間はある日、大獣”ウルフ”がいるアジト。
つまり今の”天空の壁”に登り”ウルフ狩り”の計画を実行した。
大獣”ウルフ”が寝ている隙を狙い、何と、大獣”ウルフ”は産まれたての赤ん坊のなかに転世された。力では及ばない。しかし、封じ込めなら人間はできる。と考えたのだ。
大獣”ウルフ”の封じ込めはこうして成功した‥と思われた。しかし、
大獣”ウルフ”の怒りは治らなかった。
封じ込められても、なお、大獣”ウルフ”の力が増す時、”容器”から”漏れ出す”時があった。
この時は流石の”リング”もその力を抑える事ができなかった。
”容器”から”漏れ出す”時‥それが何回か続き、”容器”は”漏れ出しても”大丈夫な場所、遠く辺鄙な場所へと追いやられた。

その場所とは‥
”ツーホール”のうちの”γ”-地帯。
”グランドライン”上最も危険な箇所と言われている”γ”-地帯、3箇所のうちのひとつだ。

光が届かず、毎日が暗闇。 
ここは宇宙空間なのか地底空間なのか見分けがつかないぐらいに暗黒の”闇場”である。

大獣”ウルフ”は危険な生物と言われても”漏れださなければ”通常は天使のような赤ん坊だ。
誰がこんなにも残酷な結果を予想しただろう。

”ツーホール””γ”-地帯には誰も近づく者はいなかった。しかし、”容器”は赤ん坊だ。
世話係が必要だった。
それなりに”力”を持った実力者でないといけない。いつ”漏れ出すか”分からないからだ。

人間は誰に世話係をさせるか協議した。
1番最初に名乗りをあげたのは”リング”だった。
実際に転世をしてしまった自分の技に後悔をしていたからだった。いくら生まれたての空っぽの”容器”じゃないと転世できない、と言っても手をくだした自分は残酷極まりない悪人だ。少しでも残酷な運命を背負った赤ん坊のためにできることを探していた。
そしてもうひとり名をあげた者がいた。 
武道家の門下生のひとりだ。
この武道家は先見性を持っていた。 
「なぜ、志願したのだ?」と聞かれると、
「生まれたばかりの赤ん坊に大獣”ウルフ”が入っている。これは何を意味するか?
それは人間が人間以上の”力”を持つ。という事。
まだ小さい赤ん坊を今のうちに大獣”ウルフ”と一緒に育て、手懐けられたら‥これは相当強い”人間”になる。
私はその手助けをしたい。」
と言った。

皆は言った。
手懐けるなんて出来っこない。
命を取られるだけだ。と。

大獣”ウルフ”の”漏れ出し”には対処法があった。もしも”容器”から”漏れ出し”たら‥
この闇に包まれた”γ”-地帯の岩で出来た入り口を閉じれ。というものだ。
大獣”ウルフ”と一体化した赤ん坊をこの”γ”-地帯に追いやった時に人間は岩で出来た扉を作っていた。

それから長い月日が経った。
ふたりは闇を温め、出来る範囲で赤ん坊の世話をした。それでも
”漏れ出し”は相変わらず頻繁にあった。
その度にふたりは命懸けで”グランドライン”を護った。
そんな状況が続いている時、偶然にも1人の女性がその赤ん坊を救うことになる。
”ジュン”だ。
その頃”ジュン”は水龍との密約により”現世”と”来世”を行き来していた。
その”来世”での出来事…

”ジュン”は”剣士の砦”ソールドチャイルドにいた。”ジュン”の”現世”と”来世”の行き来は”ソールドチャイルド”にある唯一の食堂兼、BAR(バー)である。そのバーカウンターの奥の部屋。
左側のピンクのガラス戸が繋がりの口だった。
”ジュン”は”ソールドチャイルド”に来ると名前が変わる。
”マスターp”皆はそう呼んだ。
この日は災難日だった。
広いホールの中央の席にひとりで座った大男がいた。名前は”ガイム”。
見る限り力に溢れている。
その”ガイム”が何か?を発端に大獣”ウルフ”へと姿を変えた。(後から知ったのだが、この日がこの大獣の”漏れ出し”の日だった)
天井は抜け落ち、広い食堂ホールの殆どの席が”ガイム”に崩され、料理は散々になった。
マスターPは自分が作った料理を散々にされ、崩れていく建物を目の前に「カチンッ」ときてしまった。

マスターP:「おーい。おいおい。どんだけ身体が大きいからって、こ、れ、は、無いだろ!!皆んなお腹が空いてんだ。どーしてくれるんだ。この怒り、覚悟は出来てるな!」

マスターPはそう言いながらも既に大男”ガイム”の腕を駆け上がり、マスターPの3倍はある顔面を蹴りあげた。
大男”ガイム”はよろめくが、すぐに体勢を戻した。
マスターP:「(ダメだ。効いてない。どこか振動が波及する場所は無いか?と考える)大きな相手に与える攻撃は小さな攻撃を増幅させないといけない。その増幅材料はここにはあるか?水?電気?そうだ空気ならある。」

マスターPは大男”ガイム”の股下に影を潜める。
ふと、こちらに手を振る集団が目に入る。

マスターP:「んー??君たちは?」

手を振る方に合流した。
彼らは見覚えがある。
保留兵の一団だ。
”保留兵”とは?ここ”剣士の砦”は字の如く”剣士あるのみ”の砦だ。
しかし、中にはこの戦続きの砦で癒えない傷を負った者もいる。
”保留兵”とはその、戦いたくとも”戦えない”集団の事を言った。
その中の団長の”ヨシ”は片腕が無い。片腕がなくても戦いに使う装身具を作る腕は天下一品だった。”保留兵”は手作業で物を作るには誰にも負けない集団だ。

”ヨシ団長”:「マスター。ああいう類の者には”コレ”を使え。”力”を封じ込める御札の様なものだ。」

見ると”腕輪”だった。

”ヨシ団長”:「今じゃ貴重な葦(ヨシ)で編み込んだ腕輪じゃ。この葦(ヨシ)には言い伝えがあってな、葦(ヨシ)には言葉が2つある。葦(アシ)とも読むし(ヨシ)とも読む。どちらも正解。
なぜ2つの名前があるのか?
それは”悪”(アシ)から”良”(ヨシ)へと向かう。という意味を含んでいるのじゃよ。
マスターよ。この腕輪を水龍の元へ持っていきなさい。そして”封じ”の”念”を注入して持ってきておくれ。この”腕輪”をやつ。大男”ガイム”の左腕に嵌めるのじゃ。そうすれば大男”ガイム”は人間へ戻れる。」

マスターP:「おおー。分かった。素晴らしい。」

マスターPは”保留兵”だけに本当の自分の隠し事を話していた。
”保留兵”は寿命が短い者が大半だ。
彼らを”生かす”為にも、本当の話は必要だった。
自分が”現世”と”来世”を渡っていること。
地球の未来は明るい。ということ。
それらを伝えることによって”彼ら”も生きる希望が湧いてくるのを知っている。
彼らは口もかたかった。それだけマスターPを信用していた。

マスターP:「分かった。行ってくる。くれぐれもあいつにやられないでよ。私が来るまでなんとか堪えて。」

水龍の元へ来ると、水龍は”腕輪”に封じの念を吹きかけた。
水龍が言う。
「もうひとつ腕輪を作ってもらってきてくれ。ここ”グランドライン”にも大獣”ウルフ”が現れた。」

”ジュン”は驚いた。
あんなに厄介な大獣がこうも立て続けに現れるのはおかしい。世も世紀末に近いのかも知れない。と思った。

”ジュン”は行ったり来たりだ。

”剣士の砦”へと戻ると”剣士達”が集っていた。
その中には”剣士G”の姿もある。

”ジンダラボッチ”が”大男”ガイム”に攻撃を仕掛ける。大男”ガイム”は大獣だが、動きが速い。
”ジンダラボッチ”は軽々と息だけで吹き飛ばされる。
”剣士G”が隙を見て斬りかかる体勢になっていた。
「ダメだ!」
マスターPは急いで”葦の腕輪”を大男”ガイム”の左腕に嵌めた。
「グォーォ!!」
けたたましい獣の大声で大男”ガイム”は人間の姿に戻った。
これで”腕輪”がある限り大男”ガイム”は”大獣”ウルフ”になる事はないだろう。

マスターPは次に保留兵の”ヨシ”団長を探した。

キョロキョロしていると足元に”ヨシ”団長がいた。

”ヨシ団長”:「マスター。さすがだったね。惚れ惚れしちまう。」

マスターP:「ちょうど良かった。”ヨシ団長”。今、大男”ガイム”に嵌めた”腕輪”なんだけど、もうひとつ作れる?現世にもどうやら必要みたい。」

”ヨシ団長”:「おお。わかった。それでは職人小屋に戻ってすぐに作製する。」

マスターP:「お願いね。私にも出来る事があれば教えて。」

マスターPは製作小屋にたまに顔を出していた。物を作る機械や音。無心に製作している彼らの姿を見るのもよかった。腕が無くとも耳が聞こえなくとも不自由さの中に、それを乗り越える”力”が加わり、不自由さはエネルギーを生み出していた。この場所にはそれがある。
この場所にいると自分自身に自然と活力が湧き起こる。
人にはそれぞれちゃんと役割がある。
人の命にも無駄な事なんてない。
命はただそこにあるだけで誰かを救ってくれるのだ。

精巧な”腕輪”が出来上がった。

マスターP:「さすがね。とっても良い出来具合だわ。ありがとう。これでまたひとりあなた達のおかげで”人”を救える。」

マスターPはすぐに”現世”へ戻った。

”腕輪”を水龍の所へ持っていく。
同じ様に”封じの念”を吹き込んでもらった。
水龍は”ジュン”をツーホール”γ”-地帯。赤ちゃんのいる”闇の砦”へ”とばし”た。

”ジュン”は驚いた。
闇の中で暮らす3人の姿。
ぼんやりとランタンの光を一角の場所へ吊り下げ、その何個かの灯りで闇を照らす。
門下生は赤ちゃんの目の前で拳を突き、その動作を見せつけているようだった。
”リング”が”ジュン”の姿に気付く。
 ”リング”:「お恥ずかしいですが、1日の殆どは”コレ”です。門下生の”突き”や”蹴り”を反復し赤ん坊の目に焼き付けております。私も最初はイヤイヤ付き合っておりましたが、最近では彼の言うのも”有り”かな、と思えるようになりました。」

”ジュン”:「笑。この暗闇の中で見えるものと言ったら”拳の突き上げ”ぐらいですものね。これなら効果あるかもしれません。ここは景色ひとつも無い。残酷な環境を”武道”が明るくしている。この子は”武道”の子になる。」

”リング”:「そういえば、この子には名前が無い。ここにいる人たちで名前をつけてあげましょう。」

一同:「いいね!」

名前は武道から名前を取りBOO(武)とした。

”ジュン”:「この子には元々親が亡くなっていなかった。これからは”門下生”。あなたが”親”と名乗りなさい。BOO(武)をよろしく頼むわ。」

”ジュン”はBOO(武)が大獣”ウルフ”にその姿を変えるまで”闇の砦”で過ごした。
”闇”は4人の絆を包み深めたようだった。
そして何日か経ちBOO(武)は大獣が”漏れ出し””ジュン”は”腕輪”を嵌めた。

ジュン:「よし。もうこれでBOO(武)は大丈夫だ。”漏れ出す”ことは”腕輪”がある限り無い。皆のいる所へ戻るぞ。」

すやすや眠っているBOO(武)の寝顔を見ると何とも癒えない苦しい思いが込み上がってきた。
ふたりは涙を流して喜んだ。
「良かった良かった。」
BOO(武)の寝顔がふたりを救う天使のようだ。
これでBOO(武)の見る景色は変わる。”闇”での生活はこうして終わった。

人の力は偉大なり 葦のように”悪し”は”良し”へと好転する。それには周りを支える人間の力あってのことだった。
BOO(武)は人を護る為に大獣になり、人に助けられて大獣を抑え込む事ができた。儚き運命を背負って生きている。






大獣ウルフ

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