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鈴を持つ者たちの音色  第二十六話”α”-グリーン④

ME(男)とWO(女)は海モグラの後ろを追って階段を降りる。
既に30分は降りっぱなしだ。どんどん”グランドライン”の底部へ向かい降りてゆく。
酸素が段々と薄くなる。圧力も強くなっているせいだろう。
”グランドライン”は高部へ行く度に酸素は濃くなるという特徴があった。今はその逆になる。
”薄くなる方”へ向かっているのだ。
手に持ったランタンもそのせいか灯りに元気がない。
もし、「灯りが消えたらどうしよう。」WO(女)は想像したが、前を先導するのは真っ暗闇でも目的地に必ず着く”海モグラ”がいる。迷うことはない。しかし、もし灯りが消えて真っ暗闇になったら喋れない”海モグラ”と、どう意思疎通をとったらいいのだろう?それはそうなってみないと分からない。
薄暗くて狭い場所にいると悪い想像しかしない。環境がもたらすネガティヴthinkingというやつだ。
階段の上りと下りは一見、下りの方が楽と思いきや逆にしんどい。下るたびに脚のどこかへ体重の何倍もの耐重が乗る為、下る度に疲労が蓄積される。

WO(女):「ねぇ!一回休憩させて。脚がもたないわ。」

ME(男):「僕もだ。たのむ!」

WO(女)は”海モグラ”の後髪を引っ張る。
それに”海モグラ”は気付いたのか立ち止まった。

WO(女):「ごめんね。ウマみたいな扱いをして。でもね、これが1番手っ取り早いのよー。いい?今のようにグイッと頭を一回引っ張ったら”止まれ”の合図よ。」

”海モグラ”は何の反応もない。

ME(男):「”海モグゥ”今行く場所まであと、どのぐらいかかるんだ?」

何故か”海モグラ”は理解しているらしい。言葉は発しないが、何だか脳に訴えかけている気がした。もしかしたら、”海モグラ”とはテレパシーで通じ合えるかもしれない。その時ME(男)はそう思った。

WO(女):「ふー。なんだか狭くて息がつまるわ。気分を盛り上げる何かが必要だわ。(WO(女)は頬に人差し指を当てて考える)んー。そう。音楽よ。音楽が必要だわ。」

WO(女)はその辺から適度な石を拾い、階段の壁に打ち16ビートでリズムを刻む。
2小節後から歌声が入る。ノリノリで歌う。
狭い階段の洞窟でこの歌だ。響くのなんの。
悪い感じはなかった。むしろ心地良い。
”ルッるルック。ルッるルック。ルールルー”
ME(男)は手拍子で応える。
”ルルック。ルルック。ルルルー”
”海モグラ”を見た。
そっかぁ。振動かぁ。
WO(女)が石で壁を16ビート。その打ちつける振動に反応して振動に敏感な”海モグラ”は踊っていた。いや、”踊る”というより、音に反応する玩具と一緒で音が鳴ると反応せざるを得ない。という踊り方だ。笑。
”海モグラ”には悪いがふたりは笑いが止まらなかった。
ふたりは落ち込んだ時はこれに限るね。と口を揃えた。

1時間も下ったところでようやく小さな明かりが差しこむ場所の入り口についた。”ひかり苔の丘”だ。ここで親父が死んだんだ。
供養の意味も込めて気持ちを落ち着かせる。
”オキナ”と同じ場所へ今息子も来た。
足の踏む感触は。吸い込む空気は。過去の彼もこのように感じたのだろうか。
”ひかり苔の丘”は、やはりひかり苔が発光している影響で明るかった。不思議な光景だ。大地がある生活はこのような感覚なのだろう。
少しの間、ME(男)は父が大地を踏みしめて地上の生活をしている姿を想像してみた。
「よし!」と息を整えて向かう。
おそらくこの丘を抜けないと水龍のいる渓谷には辿りつけない。
これだけの丘だ。発光しているもの全てが”ひかり苔”という生物なのだ。とてつもない数だ。
怒らせるとこの数全体で攻めにくる。そして数だけじゃない。この中のどこかに”女王”も潜んでいる。父を殺した張本体だ。

巡回員グリーンは若い時に、この”ひかり苔”をむしり取る様に集めた。おそらく”ひかり苔”はちょっかいを出されるのが癪(しゃく)に触れるのだろう。花を摘むように花を切り取る。果物が食べたいと言って一本の樹に育つ果実を根刮ぎ取ってしまう。その様な猪が畑を荒らす様な真似さえしなければ何も起こらないはずだ。
ただ、何もせず通り過ぎるだけ。ふたりはそう思っていた。

ん。まてよ。ME(男)はハッと思った。
よくよく考えてみる。
父は巡回員グリーンを最初”スパイ”だと思いマークしていた。それは何故なんだろう?
巡回員グリーンは”スパイじゃなかった”という言い方をしていた。しかし、それは自分の事。。
もしかしたら‥
もし僕らが騙されていたとしたら、これから、どうなる?
もし巡回員グリーンが本当はスパイだったら?
「なるほど。」
そちらの線も有りだ。
もし巡回員グリーンがスパイだとしたら、この目立たない任務途中だ。僕らにヒントを与えて裏で【聖水の壺】を探させるのも有りっちゃ、有りの事だった。
ME(男)はWO(女)へその事を伝えた。
WO(女)はそんな筈ない。と信じようとしなかったが、どこか半信半疑の迷いを客観的に感じた。

巡回員グリーンを信じるか信じないかの判断はどこにある?

「あっそうだ。」ME(男)は閃いた。
巡回員グリーンがもしスパイならきっと、この場所にいる。
ME(男)はWO(女)にその事を伝えた。
そもそも巡回員グリーンが若い頃に本当に任務を受けていたのか?
本当に”オキナ”が巡回員グリーンを受けもったチームにいたのかも真実とは言えない。
もし、父”オキナ”と同じ巡回チームにいたなら、あと、ふたり”ひかり苔”に襲われて、”オキナ”の死に目にあっている人がいる。という事になる。
今すぐそれは確認できないが、裏をとる必要があるかも知れないな。とふと、ME(男)は思った。

ほぼ景色全体が”ひかり苔”の場所を通る。
道という道はなんとなくある。しかし、信じてはいけない。この道に誘導され”何か”危険な場所へと行く可能性だってある。
「うん?(ちょっとまてよ。」
”海モグラ”の後ろを歩いていて、ふと気付いた。
「(そうだ。”海モグラ”がいるじゃないか。わざわざ”ひかり苔”の前を堂々と歩かなくてもいいじゃないか。”海モグラ”で地中を移動すればいい!。)」

ME(男)はそのアイディアをWO(女)に伝えた。
WO(女)は「なるほど。その手があったか。」
と同意したが、それが、後に間違いだった事に気づく。”海モグラ”はそれら”全て”を考慮して僕らを誘導してくれていた。なのに、僕はその安全経路を間違った方向にこの時、変えてしまったのだ。

ME(男):「”海モグラ”よ。このままの経路では”ひかり苔”がいっぱいで危険だと判断する。ちと悪いが、ひとつ穴を掘り地下経路で移動したい。できるかな?」

ME(男)は毛をかき分け”海モグラ”の耳に直接命令を下す。”海モグラ”はコレに弱い。すぐに言う事を聞いてしまう。”海モグラ”にとって直接耳に振動を入れられることは”暗示”にかかったような気分なのだろう。
”海モグラ”は全身の毛を一度身震いさせた、と思ったら直ぐにその場で真下に穴を掘り出した。
あっという間に穴はでき、ふたりはその穴の中へ入る。涼しい穴の中を移動する。ふと?気がつくと何故か暗いはずの地中路が、薄らと明るいのに気付いた。。なんと”ひかり苔”が後ろから追ってきてるじゃないか!ぞろりぞろりと地中路を埋め尽くす勢いで穴から入ってくる。

ME(男):「まさかだろ!しまった!穴を塞いでおくべきだった、」

WO(女):「ぎゃー。私たちが何したってのよー。」

ME(男):「…そうか。”穴を掘る”という事は生態系を崩した。という事なのか?この場所。”ひかり苔の丘”は岩ひとつ動かしても、草ひとつ抜いてもいけない。見た姿ありのままじゃ無いと、それは”生態系を崩した”と見なされる…」

WO(女):「絵画は、その風景そのものを書き写したもの。その風景が変わって終えばその絵画は絵画では無くなる。違う絵画と見なされる…」

ME(男):「”ひかり苔の砦”は何もかもをそのままに、”変化”を嫌う”無変化の丘”だった‥」

WO(女):「そうと分かったら攻撃されるわ。どうする?」

ME(男)は冷静だった。

この場所がそうさせるのだろう。
こんな悪状況でも、まるで大した事じゃ無いとでも言えるぐらいME(男)は冷静だった。

ME(男):「‥これだけの数を一斉に動かせるということは、ヤツらに何か、一度に動かす伝導力があるはずだ。僕たちが穴を掘ったなんて、遠くにいる”ひかり苔”にはわからない。スイッチのような、張りめぐらした蜘蛛の糸のような、”何か”はわからない。しかし、絶対”それ”はある。”それ”がわかれば”ひかり苔”の襲来は止められる!」

WO(女):「伝導方法‥”ひかり苔”‥ひかり‥光‥。?」

WO(女):「ねえ!ランタン持ってる??直ぐに出して!それも思いっきりシャッフルよ!」

ME(男):「ああ!思いっきりシャッフルね!」

”ひかり苔”の追ってくる速度はゆるりゆるりと追ってくる。こちらが急いでいる分には追いつかれない速度だ。

ふたりはランタンを取り出し、思いっきり振り切った。強い発光が地中路を眩しく照らす。
それと同時にふたりは後ろ手で”海モグラ”にしっかりと掴まった。

WO(女):「”海モグラ”速度強!!」

WO(女)は両手が塞がっている為、口元で”海モグラ”の毛を掻き分け、耳に噛みつき直接命令した。

3人のスピードが速くなった。

”ひかり苔”はランタンの強い放射光に反応した。
ゾロゾロと入り込んだ大量の”ひかり苔”は一度動きを一斉に止めた。

WO(女):「見た?”ひかり苔”の伝導スイッチは”ひかり”と名が付く通り、”ひかり”だったのよ。」

ME(男):「自らを発光させて相手方や一同と連絡をとりあう。そして発光体は他の発光物に影響される。光と”ひかり”の共演か。」

WO(女):「そう。光の速度は秒速29万キロメートル。この砦を皆で連絡取り合うには何よりも早い。」

ME(男):「”ひかり苔の丘”はただ明るいだけの丘ではなく、それは鳴き声で意思疎通をはかる鳥や、羽を擦らせて音を出し共鳴し合う蝉のように、ここ”ひかり苔の丘”は”ひかり苔”が”ひかり苔”同士連携を取り合う為の”ひかり”だった。」


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