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鈴を持つ者たちの音色  第二十七話”α”-グリーン⑤

ランタンの光量には限界があった。
ここ”グランドライン”でも今この場所は限りなく底部に近い。底部は酸素が薄い。
ランタンの光量もどんなにシャッフしても、それとなく元気がなかった。
”ひかり苔”をランタンの光量で足止めしても結局はあれだけの数だ。学校の校庭一周分ぐらいの大きさのランタンじゃないと誤魔化せない。

ME(男)とWO(女)は次の手を考えていた‥

ME(男):「”海モグゥー”もっと速く掘れー走れー。ヤツらがやってくるー。」  

WO(女):「こんなんじゃキリがないよ。どーしよー。」

ふたりは急いでいるのに右へ左へ穴を真っ直ぐに掘らない”海モグラ”へ苛立つ。

WO(女):「ねーねー。”海モグゥー”そんなクネクネ穴掘ってちゃ”ひかり苔”に追いつかれるよー。真っ直ぐ堀りな。真っ直ぐ!」

ME(男):「やめろよー。”海モグゥ”は堅い岩盤を避けて掘りやすく早いルートを確実に進んでいるんだ。急かすなよー。」

WO(女):「そんな生ぬるい事言ってる場合!?ほら!”ひかり苔”は着実、に。距離を縮めて迫っている。」

ME(男):「分かってる!分かってるよ‥」

その時また”海モグラ”が堅い岩に反応した。”ギラリ”と岩がランタンの灯りに反射した。

ME(男):「…(今、ギラッ、としたな)」

岩、石?鉱石?ん?ん?おー。そうかぁ。

ME(男):「”海モグゥ!”今のようなギラリとした鉱石がまた出てきたら、やって欲しいことがある!」

ME(男)は”海モグラ”の耳元へ囁く。「ホニャララ〜ホニャラホニャホニャ‥」

ME(男)は”よし!”と本腰をいれる。
WO(女)へその事を伝える。WO(女)は”分かった!”と理解する。

その時がきた!

”海モグラ”はギラリと反射した、その鉱石を連射して力強く引っ掻く!引っ掻き引っ掻き、”海モグラ”の堅い大きな爪と頑丈な鉱石がぶつかり合い擦れ煙が立ち上がった。そして‥
”バチバチバチバチー!!ジリジリー!!ボンンッ!!!”
”スパーク!!”
狭い地中通路の中で電光石火!
ME(男)とWO(女)はタイミングを計り”音”と共に”海モグラ”の背中の毛じゃらみの中へ逃げこんでいた。
電光石火スパークのどぎつい痛々しい光矢が”ひかり苔”の”レンズ”がしっかり受け取る。
”ひかり苔”はこのレンズで仲間同士、光を受け取り連携していた。
光を受けとるレンズだ。それはどんな光もしっかり受けとる。もし、それが、危険な光だとしても‥。
電光石火スパークの、光をしっかり受け取った”ひかり苔”達は、回路がおかしくなってしまった。それは、まるで溶接工が、遮光マスクをせずに溶接してしまったかように、”眼”(レンズ)がやられてしまった。
”ひかり苔”の特徴はその”シェア”能力だ。
一体が受けた光は次々と連鎖し、皆共同体で
同じ光を受ける仕組みだ。素早い連携能力。
今はそれが裏目に出てしまった。
”イケナイ光”を皆に連鎖してしまった。
それは本拠地を爆破したようなものだ。

”ひかり苔”はスパークを浴びて、一瞬のうちに一斉に枯れた花のように頭を垂れてその動きを静止した。
機能停止。

ME(男):「”海モグゥ”地上に出よう。もう大丈夫だ。」

2人は”海モグラ”に地上への穴を掘ってもらい、3人は地上へ出た。

来た時と”ひかり苔の丘”の景色は一変していた。

ME(男):「まさか。こんなになるの?すげぇ。」

WO(女):「全く違う景色ね。これが、本当のここの景色だったんだわ。」

光を発していた”ひかり苔”はうなだれ、光を発していない。機能停止状態だ。
それは一面がそうなっている。
という事は景色を光で埋め尽くしていた”ひかり苔”がそうなっている。
明かるい”ひかり苔の丘”は今は暗黒の空っぽの景色になっていた。
ただの黒いキャンバス。

WO(女):「わからないものね。あんなに美しかった丘の景色だったのに。あれは”ひかり苔”が偽って作った世界だったのね。美しく見せつけ、ガブリと私たちを痛めつける。タチの悪い性格ね。」

ME(男):「今のうちに進もう。あっそうだ。」

WO(女):「ザ•ドクターね。」

ME(男):「そう。ドクターtree」

巡回員グリーンの話には信用性が無かった。
どんなに探しても探しても”ザ•ドクター”という一本の樹はどこにも無かった。

ME(男):「これで分かったね。”ザ•ドクター”はどこにも無かった。という事は巡回員グリーンが言ってる事は信用できない。という事だ。」

WO(女):「としたら、私たちこのまま先に進んで大丈夫なの?まんまと巡回員グリーンの策略に乗っかっていない?」

ME(男):「モロに乗っかっているでしょ。。でも僕は逆に、巡回員グリーンの思惑に騙されたフリをしたい。このままヤツの思い通りにさせ、最後には全てひっくり返してヤツをギャフンと言わせたい。そう。ぐつぐつ熱熱の鍋をひっくり返すようにね!」

WO(女):「しょーもないよね。男と男の争いは。ねえ。私今、直感で思ったの。言っていい?」

ME(男):「なんだ?」

WO(女):「あなたのお父さん。”オキナ”は生きている‥」

ME(男):「なぜわかる?」

WO(女):「匂いよ。臭いの。色んな話が。私は直感が働くの。話の筋と、いうのかな。うさん臭い匂いを嗅ぎ分けられる。巡回員グリーンの話も。でも、あなたの建前もあるし、直ぐに”問題ないわ”なんて口は聞けないわ。」

ME(男):「そうか‥。君がそういうならそうかも知れないなぁ。‥なんだか悪いな。うちだけ‥その‥」

WO(女):「気にしないで。私は生まれてすぐ、母親の”匂い”も知らないから。こんな世界よ。ひとりが当たり前の世の中よ。」

”ひかり苔の丘”は、ほぼゴールに行き着く。
ME(男)は振り返る。
父親は確かにここにいた。
それを感じた。そしてWO(女)もそれを感じている。それは分かっている。
しかし、ここからどこへ?
そして父親は現在はどこに?
スウと息を一息吸い、【聖水の壺】に気持ちを切り替えた。
時間には限りがある。
とりあえず【聖水の壺】を探してからでも父の行方は遅くはないだろう。
ME(男)は父の姿に鍵をかけた。
大事に大事にその鍵をあける日まで。




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