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鈴を持つ者たちの音色  第三十六話 ”鈴集め③”

RI(凛)は過去に水龍と会っている。
これはその時のRI(凛)の記憶だ。

まだ人類が地上に住んでいる頃、地上は戦闘が絶えなかった。
この頃のRI(凛)はまだ幼かったが、それでも現実はこんな幼い力までを必要としていた。

RI(凛)は小さな身体を最大限に生かした。
スピードとアクロバティック。
力が無い。それを補うかのように人の身体を研究し、あらゆる急所を知り尽くした。
そこをワンポイントで突く。
それがRI(凛)の闘い方だった。
武器は持たせてくれなかった。
だから、相手の武器を奪い、その武器で闘う。
誰もが期待なんてしてなかった。
”歩”はひとマスずつ地道に前へ進むだけ。後ろへは下がれない。
前へ現れた敵には逃げずに反応するのみ。
RI(凛)は、ただひたすらに闘いに挑んだ。

元々運動神経は良かった。
RI(凛)は幼いながらも筋が良かった。
闘う度に強くなる。
小さいながらも一対一の場上なら誰にも負けなかった。
大勢の敵に取り囲まれた時は俊敏に逃げた。
何日経っても戦闘は終わらなかった。
ある時
闘いの最中に突き飛ばされ、RI(凛)はどこかの湖の中に落ちた時があった。
水の中に沈みながらRI(凛)は「(このまま、どこまでも深く深く沈んでしまえばいい。こんな世なんか生きていても価値がないじゃないか。)」
そんなことを考えながら”水”に身を委ねていた。

ひとつの大きな水泡がRI(凛)を包んだ。
RI(凛)は息を取り戻す。

ふわふわとRI(凛)の水泡は湖の深い中を漂う。

湖の中にいると、地上での戦闘が本当に起こっているのか?さえ分からなくなる。

RI(凛):「ああ。このままここで。一時でも欲しい。どこにも行かず、だだこの場所で漂っていたい。」

RI(凛)の水泡がグラリと揺れる。
水龍のお出ましだ。

RI(凛):「(なんて大きさだ。今いる水泡は水龍の鼻穴程度の大きさしかない。こんな海底にこんな巨神がいること自体あり得ない)」

それは怖さを超越し未知なる領域に自分が足を踏み入れた高揚感と、水龍の存在に気付いた今、堂々と今胸を張り、息を整える。吸い上げ吐ける呼吸を意識した。
この世の中は広い。そして大きい。この水龍のように。私の存在なんて小さい塵のようなものだ。

この時、RI(凛)は少しぐらい生きるのを延長してもいいかな。と思えた。 この世の中をもっと見てみたい。自分が見ている世界はほんの片隅の小さな物しか見てない。と。

RI(凛)は水泡の中で漂いながら夢を見せられた。。

風が心地よい。
RI(凛)は草原の中に寝そべり、流れる雲を眺めていた。
雲がどんなに通り過ぎていっても時間は流れなかった。
目を閉じると流れる雲の音が聴こえるような気がした。
雲の音というより雲の”声”だ。
それは”じゃあな”や”またな”の再会を約束した者達の声に聞こえた。
いつかはまた流れてくる。
懐かしさを感じる風に乗ってくる。

闘いに敗れた者の顔を思い出す。
命を奪った顔の者なのに思い出せない。
命とは証拠を残さないものなのか。
この雲のように何となく形は違い、形は原型を伴わないうちにどこかへ流れ去ってゆく。
人の”命”もそういった”もの”なのかも知れない。

RI(凛)は夢から覚め、地上に戻ったのを確認して身体を起こす。
そこには闘いの場面は無かった。
争っていた群衆の姿も今は無い。

先ほど、ここで人と争っていた自分はどこへいってしまったのだろう。
水龍が大きな息でその”刻”ごと吹き飛ばしてしまったような名残が空気感に証拠を残していた。
人の力では及ばぬもの。
それが神の力であろう。

それからRI(凛)は神の力を探しに行く旅に出た。
探すだけじゃない。
神の力も得る為に。
目の前で起きた神の力は偉大だった。
自分もそれさえあれば。

RI(凛)は旅の途中で”構造屋のグッド”と出会った。
”構造屋”とは地理や地形、地層の構造を調査して旅をしている研究家だ。(後で分かるが、この”構造屋グッド”はGO(豪)の父親だ。)
彼の方から話しかけてきた。

グッド:「おーい。お嬢ちゃん。こんな所をひとりで何してるんだい?道にでも迷ったか?これからどこ行くんだい?行く方向はわかるのか?」

RI(凛)は煩わしく答える。今までも見た目だけで声をかけてくる人が度々あった。

RI(凛):「大丈夫です。心配はいりません。」

グッド:「ほんとに?コンパスは持っているのかい?一体どこ目指しているんだ?」

RI(凛):「コンパスはありません。無くても構わないです。目的地も今の所ありませんから。行き当たりばったりの旅です。自分が理想とする場所へは”念じれば”着くはずですから。」

グッド:「はぁーん?”念じれば着く”?だと。笑。こりゃ面白い。それなら先ず、これを持っていけ。地図とコンパス。そして水筒。コンパスの使い方はなぁ‥」

RI(凛)はこうして”グッド”から旅の極意や実践方法を教わった。出会う人との注意点も。

グッド:「若いってのはいいなぁ。勢いがあって。でもなぁ旅を甘く見ちゃいかん。危険も多い。急に落とし穴や崖崩れがあったり、獣に襲われたり、毒虫に刺されることもある。何があるか分からないのだよ。」

RI(凛):「分かってます。それも訓練の一環だと思ってます。そういう、あなたはこれからどこへ向かうのですか?」

グッド:「11日間歩いてきた。ようやくあと2日歩けば辿りつく。”引力の谷”へ。そこには地球上には存在しない物質の山があるという。その場所には個人的に興味があってね。正式な依頼では無いのに向かってる。危険な場所を承知でね。」

RI(凛):「あなたも変わり者ですね。」

グッド:「いえいえ、あなたほどでも。それじゃ。グッドラック。(ハットのつばを一度押さえ背中を向けた)」

RI(凛)はその後ろ姿を見送ると何か感じるものがあった。

RI(凛):「ねぇ。ちょっと待って!私もついて行っていいかなぁ。」

グッド:「ダァーめだ。おそらくあそこは危険だ。地球上の物じゃないのが、有る。ということは、地球上の者じゃないのが、居る。かもしれない。私だって想像つかない場所だ。だから私もこうしてひとりで来たのだよ。もし、何かあれば君の親に怒られてしまうからな。くるな!じゃあな。」

RI(凛):「…」

RI(凛)はそう言われてすぐに身を引くタイプではない。こっそり”グッド”の後をつけて行った。
そうして2日経ち、”グッド”一行は目的地”引力の谷”へ着いた。

山へ入る入り口は樹木で隙間なく覆われ、ようやく狭い、人ひとり入れるぐらいの隙間を見つけた。
そこを通ると今度は、ゴツゴツしたバケツ一杯ぶんの大きさの石が散々に敷き詰められていて、歩き辛い。
まるで人を近付かせない障害なのか。
足元に気を取られると向かう先を見失いそうになる。
そしてようやくたどり着いた。その構造物を目の前で確認できた。
長方形の姿をしたものが、なんと目の前に刺さっている。
長さは40Mもあろうか。

RI(凛)はあまりの驚きに身を隠すのを忘れていた。”グッド”にその驚く顔を見られてしまった。

グッド:「もう。しょうがないなぁ。君も頑固だね。僕と似ている。
君がずっとついてきているのを知っていたよ。見ろよ、すごいだろ。これ。一体これは何なんだ。現実離れしている。気をつけろ。中から何が出てくるのかわからないぞ。」

”グット”は早速外側の一部を採集しようと切り取ろうとするが素材は固く簡単には採集できない。

グッド:「地球外物質。もしくは隕石。いや、もしかしたら‥宇宙船‥その線が強いかなぁ。」

”グッド”はその長方形の異質な物体を一回りした後、上方に登りはじめた。

グッド:「ひと回りしてみたけど、特にスイッチ系やボタン類は見られなかった。おそらく外側には無いだろう。しかし、どこかに扉の様なものがあるはず。ちょいとそれを探してみるよ。君はそこ。埋まっている部分を掘ってみて。もしかしたら地中側にそんなのがある可能性もある。」

RI(凛):「えー。地中って言ったって何メートルも刺さっているよ。これを掘るのか?日が暮れるよー。」

グッド:「まぁまぁ。時間はたっぷりある。気長にやろうじゃないか。」

RI(凛)は穴を掘りながら、”グッド”がどうしてこの場所を探せたのか不思議に思った。こんな辺鄙な場所だ。宝探しのように探さないと見つからない。
何か彼には場所を、特定出来る何かがあったはずだ。

1時間ぐらい経ったと思う。
ふたりの作業での成果は何も出なかった。
座り込み”グッド”が話す。

グッド:「ここは”引力の谷”と言って都市伝説界隈で有名な場所なんだ。しかしあくまで都市伝説。誰もこうして実際に現地に来る者はいなかった。しかし、ある日この場所を訪れたという話を持ってきた若者がいた。
その若者は私の研究室にわざわざその話をしに来た。
地方の大学に通う学生だと。その若者は自己紹介してくれた。
なぜ”引力の谷”と言うのか。
そして実際に”何”を引きつける場所なのか。
その若者は詳細に丁寧に説明をしてくれた。」

RI(凛):「…」

グッド:「なぜ”引力の谷”と言うのか。その場所にはその場所にしかない”引力の要石”が埋まっていると言う。その”引力の要石”は人間に例えると”胃”だそうだ。地球のこの一部分に”引力の要石”が埋まっていて、ハエ取り紙のように”アレ”をひきつける。」

RI(凛):「”アレ”?それは地球外生物のこと?それを、なぜひきつけるの?」

グッド:「回収だ。地球はすごい。身の回りに危険なものがあると自分の胃の中に閉じ込め消化し撃滅させる。
しかし、ヤツらも賢い。
地球に閉じ込められる前に脱出する者もいた。
それが”アイツラ”だ。」

RI(凛):「”アイツラ”?」

グッド:「そう。”アイツラ”。地球上で争いの種は全て”アイツラ”の仕業だと言う。一般人に紛れ込み政治をも動かす。」

この構造物はいつからこのままの姿で残っているのか特定すればわかると思うが、おそらくこの構造物は”漏れ出したもの”だろう。
地球の引力で閉じ込められたものなら、ここには姿はない。
今こうしてここに残っている、ならこれは”アイツラ”が脱出した形跡。”アイツラ”は地球に閉じ込められることなく、おそらく”漏れ出し”てしまったのだ。

グッド:「もしこれが本当の、話なら私は”アイツラ”を撃滅させる組織を作ろうと思う。
それを今日確かめにきた。」

しかし、”アイツラ”はグッドが思うよりも早く脱出者を集めていた。グッドの、組織よりも早く。そして地球は”アイツラ”に地上を奪われた。

RI(凛):「その学生は何者なの?その学生が現れなかったら、”グッド”の、組織のアイディアも立ち上がらなかった。」

グッド:「ああ。そうだな。その学生の正体まではまだわからん。しかし、これだけはわかる。あの学生は味方だ。と。」

後でわかる。
その学生は”アイツラ”に洗脳されたスパイだった。
しかし”守る力”が強い者は洗脳させても完全体にはならないようだ。
正義感が強く忍耐強い者は洗脳されない。
そして、その学生。それが”オキナ”だった。
後に”オキナ”はキーマンとなる。
それは”アイツラ”と”グッド”の組織。両者を行き来出来る唯一の情報屋だからだ。
上手くいけばどちらにも渡り歩ける。

”オキナ”はまだ気づいていないだろうがそのうち思いだす。
”アイツラ”の記憶を。。

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