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鈴を持つ者たちの音色  第四十四話 ”受容②”

テレポートした場所は”グランドライン”東側”無の地”だった。 
アメリカのウエスタン映画に出てくるような荒れた砂地が広大に続く見通しが良い大地。
ここなら少しぐらいは大獣が暴れて壊されても被害が少ない。大叔母が咄嗟の判断でテレポートした場所だ。
”天路の頂”では稽古は続いている。時間が無い。大獣の相手に時間を浪費できるのは大叔母ひとり。それに無茶な闘いで”スズモノ”達にダメージを与えたくない。
大叔母はそれも考慮した。
”リング”と”巡回員ゴールド”は看板の影に身を隠す。
看板には”くたばれ異星ヤロウ”とスプレー缶で乱雑に描いてあった。

巡回員ゴールド:「おいおい。コレ。コレみろよ!」

”リング”:「えっ!もしかして!(リングが看板を指差す)」

巡回員ゴールド:「そーだよ!コレ!お前が描いたやつ!」

”リング”:「おお!覚えている!クライミングに向かう途中で、あまりにこの大地が景色変わらな過ぎて歩くのが退屈で、ここで休憩した。その時に描いたヤツー!」

巡回員ゴールド:「おもしれー。まだちゃんと残ってやがるー。お前”字”きったねーなぁ。笑」

”リング”:「いやいや笑。お前よりマシだから」

大獣そっちのけでふたりは盛り上がる。

”リング”:「そういや、もうひとつ看板を描いたっけな。そっちはお前が描いたはず。」

巡回員ゴールド:「そうそう。あっちは確か‥」

”リング”:「”まだ生きていたか異星ヤロウ。異星ヤロウなら、この大地に花でも咲かしてみやがれ”だよ。笑」

巡回員ゴールド:「そうそう。ここから数キロ先に行ったところにあるばす。
笑‥なぁ‥あれから何年も経ったのに‥まだ花は咲いていないなぁ‥」

”リング”:「そうだな。花ぐらい見たいもんだ。でも、いつかきっと咲くさ。ここ”グランドライン”でもな。」

巡回員ゴールド:「ああ。花を見るまで死ねない」

大叔母が大獣と向き合う。
まるでビルの中に入ろうとする人のように身長差があり過ぎる。
蟻は人間に襲いかかる事はまず無い。それは闘い方を知らないからでもある。
こういった場合の要領の良い闘い方は相手の弱点をピンポイントで突く、などといったものか。
正面から向き合ってカラダごとぶつかる。なんて事はあり得ない。…と思っていたら、大叔母はその小さいカラダで大獣にぶつかっていった。
大きく跳ね上がり大獣の振りかざす腕を交わし大獣のみぞおちに体ごとぶつかる。
大獣は巨体をのけ反らせる。効いているように見える。
そのまま大叔母は空中から落ちる速度を利用して大獣の腕を掴むと、そのまま背負い投げをかました。
大獣が背中を固い地面に打ちつける。
まわりは宇宙船が落ちたように砂埃が舞い固い地面には大獣を型取る陥没ができた。
これでこの場所は見晴らしの良い場所ではなくなった。
大叔母が言う。
「”リング”!腕輪を投げなさい!」

”リング”は腕輪を投げる。
大叔母はそれを受けとり大獣の左腕に嵌めた。
大獣は小さくなりBOO(武)に戻った。

大叔母:「こんなパターンもあるのね。まさか、”大獣離し”を断られるなんてねぇ。
そうだ。またこんな事があるかも知れない。
ふたりは”来世”に行って”自制の実”を取ってきてくれ。そろそろようやくひとつ”実”をつける頃だ。丁度あなた達は”来世”を行き来した経験がある。ふたりで行けば危険も回避できるだろう。」

”リング”:「えっ。これからですか?」

巡回員ゴールド:「えっ。こいつとふたりで?ですか」

大叔母:「そうだ。再度BOO(武)が機嫌を悪くして”天路の頂”を破壊しちゃ困る。大獣になったら手をつけられない。”自制の実”があれば大獣になっても自制できるからなぁ。それに聞いただろ。BOO(武)が度々見る夢の話。
その夢の話が本当なら大獣ウルフの子供がまだ2匹いることになる。それも双子だ。ややこしいぞ。双子は1匹よりもタチが悪い。
さっきの大獣が2匹同時にかかってくるのを想像してみろ。
”自制の実”は常備しなきゃならない。頼むぞ。」


”リング”と”巡回員ゴールド”は同意した。

巡回員ゴールド:「おい。来世に行けと言われても俺いつも大叔母に連れて行ってもらってるだけなんだ。お前行けるの?」

”リング”:「もちろんさ。」

巡回員ゴールド:「悪いけどさぁ。俺も一緒に連れて行ってよ。やり方教えてちょうだい。”とぶ”のとは、違うんだろ?」

”リング”:「しょーがないねぇ。わかった。教えてやる。来世に行くにはまず、光の束から来世の光を仕分けるんだ。慣れればわかりやすいよ。そして、その中から今度は日にちを分別して時間を分別する。そして捕まえて光に乗るだけだ。
普段生活していて急に懐かしく感傷深くなる時があるだろ?あれが、過去の光に触れた時だよ。
光を掴む技術さえ身につければ大したこと無いさ。」

巡回員ゴールド:「お前はいつも物事を簡単に言うよね。それがもし、上手くいったらお前に五円チョコ1000枚買ってやる。」

”リング”:「1000枚かぁ‥悪く無いね。」

巡回員ゴールド:「今じゃ過去にしか売って無いからね。お前好きだったろ?」

”リング”:「ああ。大好きさ。五円の真ん中に空いている穴に舌を突っ込んで徐々に溶かしながら食べるのが美味しいんだよ。」

巡回員ゴールド:「そうそう。穴が小さいから上と下の歯を使って上手く支えて穴に舌を押し付けるのかコツなんだ。
クライミングの時やったよね。」

”リング”:「光あるところに道がある。来世に旅立つ準備はいいかい?」

巡回員ゴールド:「いいよ。」

”リング”:「来世や過去に”渡る時”いつもきめるんだ。”覚悟”をね。”渡る”のはいい。けど、もしかしたら現世に戻れなく可能性だってある。
”渡る”のは”覚悟”も、するときだ。覚えておいた方がいい。交通機関だってそうだろ?車だって飛行機だって事故のリスクはある。それと一緒だ。」

巡回員ゴールド:「”覚悟”ね。なんか心配になってきた。」

”リング”:「お前にとっちゃ過去や来世の方が都合がいいんじゃないか?登る山が沢山ある。」

巡回員ゴールド:「まぁ。そうだけど‥。なぁ”リング”よ。世界は美しいよなぁ?」

”リング”:「あぁーん?どうした?急に。」

巡回員ゴールド:「何回だって言うよ。世界は美しいんだ。」

”リング”:「ああ。そうだな。何回だって言うよ。世界は美しい。それは世界が”あきらめない”からだよ。」

巡回員ゴールド:「運命が呼んでいる。全てを生きてやれ。過去から来世まで。」

”リング”:「ああ。全てを生きてやる。」

巡回員ゴールド:「よし”覚悟”した。行こう。」

”リング”:「ああ。行こう。」


どれだけの先まで来世を辿る事ができるのだろう。今の段階で行ける来世はいつも原始的だった。地球上は、過去を振り返るとそれは戦争だったり、自然破壊だったり、自然災害だったりで全て培ってきたものはいつかOFFになり、結局地上は何も無いところから始まる。
どれだけ優れた高度文明にも終わりがあり、それ以上は近代的にはならない。
それは文明の発展には地球環境の犠牲を伴ってしまうからだ。
なぜか文明の発展途上には根本的なリスクの課題がある。どうやら新しいものは地球がお腹を壊してしまうらしい。
地球が欲するものは常に同じ一定した栄養分、ただそれだけでよかった。
変化はいらない。
発展もいらない。
地球のように常に同じ自転速度と角度で回るように地球上に住む人類が同じ最低限の生活をしていれば、それがベストなのだろう。

しかし、人類はそれができない生き物だ。
過去〜現代〜未来へと見てきた者はハッキリとそれが判ってしまう。残念ながら‥

そしてこうやって期待をこめて来世にきても、結局人類はいつも戦争をしている。
来世に来た今も目の前でしている。

強いものと弱いものの差はなんだ?
何度見てもそれは無いと思う。
無いのに結果がそうさせる。
それが戦なのだ。
誰が誰に勝ってこうなった。はどうでもいいことだ。それより血で染まった土を意識せよ。
血を吸い上げた土は憎しみを保ちまた同じ実をつける。甘い果実の味は憎しみの味なのだ。それに気がつかない。
食べるものがなくなり
水も枯れる
資源には限りがある。そして、人類の
生命は窮地に立たされるが、必ず救いが現れる。
私たちは救世主なのか?
いや、戦に向いていないだけなのだ。
戦を否定し、参加する勇気もない。
それなのに救世主といわれる。
人類とは?
地球とは?
救世主とは?
一体なんなのだ?
わからない。来世〜過去へ渡っても結局答えは出ないのだろうか‥

地下水が蒸発し水が溜まりやすい地域があった。
その沼地の近くに一本の大樹が生えているという。その大樹に”自制の実”がなるらしい。
”リング”と”巡回員ゴールド”はその場所を探す。
ただ歩いたり、人に聞いたりするよりも、ある程度、環境や地理や水の勉強をし、地域を特定してから動く予定にした。
まず、地形を読み取り、地表水の跡を見つけ、地下水が豊富にありそうな場所を特定する。
水は流れることで情報を伝達している。
その水の流れる跡を探せれば、”地球の言葉”を読み取れるのかも知れない。
人類は今まで地球と会話をしていなかった。
言葉も読み取ろうともしなかった。
それがいけない。
使い捨ての生命なんて無い。生命は再生を繰り返す。良くも悪くも。その”良い”方を誘導してやればいいだけの話なのだ。邪険に扱うから仕返しをされる。

_ふたりはやっとで”自制の実”が生えている一本の大樹を見つけた。大叔母が言った通りに”自制の実”はたった一つぶら下がっている。

巡回員ゴールド:「おお。”自制の実”だ。あんなに大きな樹木なのにたったひとつしか”実”が無い。それだけ貴重な”実”なのだろう。」

”リング”:「大叔母の話だとひとつ取れば、またひとつがそのうち実をつけるらしい。取らなければずっとあのままぶら下がっているだけだそうだ。」

巡回員ゴールド:「‥不思議だな。取らなきゃ生えない‥」

”リング”「しかし、大きな”実”だなぁ。ラグビーボールぐらいある。大獣に飲ませるならわかるが、俺らにもし、あの”実”を飲め。となったら擦り潰したって一個を飲みきるなら相当、日にちがかかってしまうぞ。」

巡回員ゴールド:「大獣に飲ませるのだから、一個じゃ足りないな。ここには何回も来る事になりそうだ。場所を記録しておこう。」

”リング”:「ああ。」

”リング”と”巡回員ゴールド”は場所を記録しながらふと大樹のまわりを取り囲む沼地が気になった。大樹がある浮地まで行くには沼地に入る必要がある。
ぐるりと大樹のまわりを確認すると、どこから向かっても丁度同じ距離だ。

巡回員ゴールド:「どうする?ふたりで入るのにはちょいとリスクがありそうだ。どちらかが先に入って様子を見よう。どうせ、これだけ超貴重な実だ。簡単には取らせてくれないんだろうよ?」

”リング”:「ああ。きっとそうだ。”なにか”ある。だから今もこうして誰にも”取られず”ぶら下がったままでいる。」

巡回員ゴールド:「俺に考えがある。俺が先でいいか?」

”リング”:「笑。珍しいな。お前から先に行くなんて。どうせ碌な考えではないんだろ?」

巡回員ゴールド:「まぁ。見てな。」

沼地はどう見ても入水すれば脚をとられる。
泥は下半身。いや、もしかしたら全身が埋もれ、動く度に沼へ引きづり込まれる。
とても浮地までは距離がありすぎて辿り着けそうに無かった。

巡回員ゴールドは木片の切れっ端を靴に巻き付けた。

巡回員ゴールド:「沼を走る。その為には力のかかる部分の平米数を大きくする必要がある。一歩で沼に足を取られる前にもう一歩踏み出す。速力よりも抵抗力を分散する方が足を取られないはずだ。 
浮地まで約100M。足が沈む前に足を出す。切り替えを速くする。」

”リング”:「笑。忍者かよ。そんなんで上手くいくか?お前の発想はいつもアナログだよな。」

巡回員ゴールド:「まぁ見てなって。」

巡回員ゴールドが沼の上を走って行く。出だしは良かったが、徐々に足が沼にとられていく。足を沼に付ける度に泥が靴裏にへばりつき、足を重くした。
浮地までは、まだ距離がある。
巡回員ゴールドは深く足をとられていく。
巡回員ゴールドはこのままだと辿りつかないと判断した。
巡回員ゴールドは予め用意していたロープを”自制の実”へ瞬時に投げた。カギの部分が上手く引っかかった。
よく見ると浮地へ向かう前にしっかりロープを陸地側にも残してあった。それは計算されたものだった。

巡回員ゴールド:「”リング”!そのロープを掴んでくれ。」

巡回員ゴールドは沼へ完全に落ちてしまった。
もう一歩足りなかった。
”リング”が引っ張り、ピンと張ったロープに巡回員ゴールドは掴まるが、体は沼に完全に浸かっている。

”リング”:「おーい。そのままロープをつたって浮地まで行けよ。あと もうすぐだ。」

巡回員ゴールド:「おおー。わかってる…」

”リング”:「おーい。どうしたー?」

巡回員ゴールド:「やばい‥沼が俺を‥締めあげてくる。」

”リング”:「ええー?何だって?聞こえないぞー」

”リング”は”巡回員ゴールド”の様子がおかしい事に気づいた。
テレポートを使って浮地まで”とびたい”ところだが、地上ではテレポートは使えない。
ロープは引っ張った所で巡回員ゴールドが掴まえる力が無いと意味がない。
沼の中で何かが起きている事は確かだ。
沼の中にも入れない。もし入ってしまえば2人とも共倒れだ。
さぁどうする?

”リング”:「動けば沈む‥それは泥をかき混ぜる行為。ドロドロなものは動かなければ拡散されない‥。しかし、さっきは締め付けられる‥と言っていた気がする。動く物に反応する。泥自体がアンテナ‥もしや。
”大樹の沼”‥大樹の根は沼に張り巡らされ、そして沼の泥粒子が大樹のアンテナになっている。
泥粒子は巡回員ゴールドを外敵と判断して”潰し”にかかっている。そうだ。よしっ。」

”リング”は泥沼の中に両腕を突っ込んだ。
そして泥沼の中全体を”揺らした”。いくら、泥状でも”揺らす”と細かい振動が沼全体を響かせた。
振動は距離を得て浮地は大きな振動になった。
”巡回員ゴールド”を締めあげていた泥粒子も解けた。「いまだ」と脱出する。
ロープをつたって浮地に着いた。
”巡回員ゴールド”が手を挙げる。
”巡回員ゴールド”が大樹に登り”自制の実”をナタで切り落とした。
”自制の実”は重く”巡回員ゴールド”はやっとで保持した。

”巡回員ゴールド”は”自制の実”を浮き輪の様に泥沼に浮かせながら、さっきと同じ要領で”リング”に泥沼を振動させ陸に戻ってきた。
とりあえずは”自制の実”をひとつゲットだ。
地球に存在する貴重な資源は簡単には手に入らない。薔薇に棘があるように、何かを”得る”時には危険が潜む。やはり地球との対話がこの星の生命を保持する鍵となるようだ。








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