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鈴を持つ者たちの音色 第三十二話 ”同調④”

血が”記憶”を思い起こす。
それも残酷な”記憶”を。

闇の中で我の意識に戻った。
さっきの記憶はリアルだった。
オキナの”記憶”と僕の今の”記憶”が混在する。

どう頭を整理してもオキナの”記憶”で見たあの”デカい者”は”海モグラ”だった。。

これはどう解釈すればいいのか。しばらく考えた。
おそらく”海モグラ”は”友達”を吸収してしまったのでは無いか。と考える。何故か?それは”音”の能力だ。
友達は唯一”音”を振動で感知できた。それと、今の”海モグラ”には目は無い。
オキナの”記憶”の”デカい者”には目があった。
相違点がある。という事はそういう事だ、としか考えられない。

ME(男)の頭の中には今何故か、”神龍の宮”に置き去りにしてきた”海モグラ”の姿が浮かんだ。
何故か”海モグラ”には感じるものがある。
そして”海モグラ”も同じく僕に何かしらの感情を持っている気がした。
ME(男)にとって”海モグラ”はどこか特別な存在なのだ。

暗い闇には底が無い。
”記憶”を辿る闇に再度落ちる。
次にはどんな闇が待っているのだろう。

闇に落ちる速度が徐々に遅くなる。
下の方に柔らかいピンク色の灯りが見えた。
駅に停車するように、その灯りの場所へ落ち着くと、その灯りは”RI(凛)”であった。

RI(凛):「ここが闇の終着点になる。ここでお前に伝えておく事がある。覚悟して聞け。」

ME(男):「なんだよ。あらたまって。」

RI(凛):「先程みたオキナの”記憶”はまだ序の口だ。本当ならもう一つ。大事なオキナの”記憶”を二本立てで見せる予定だった。しかし、辞める。君には残酷すぎるからな。」

ME(男):「はあ?なんだそれ。さっき見たのはオキナ自身、何のダメージも受けていなかったぜ。身体には。ただ、心のダメージはキツい。」

RI(凛):「よく聞け。友達の”その後”だ。
友達は結局”デカい者”に吸収されてしまった。
簡単に言えば食べられてしまったんだ。
”アイツラ”は”デカい者”のような異質体を地球上に送りつけて人間を殺戮し滅ぼそうとしていた。そしてその中で、”アイツラ”に対抗する能力者の存在を知り、探すのも同時にしていた。
能力者を吸収すれば、その力は受け継げられる。
”デカい者”はハンターだった。

君が知る”海モグラ”に音を空気振動で感知する能力があるのを知っているな。アレは正に”友達”の持っていた能力だ。」

ME(男):「ああ。わかる。」

RI(凛):「そしてもう一つ。ここからが大事だ。”海モグラ”はどうして”グランドライン”全体の位置を把握出来るか?どうしてどんな場所でもピンポイントで行けるし、先にある危険をも回避できるか?わかるか?」

ME(男):「‥まさか。‥”トオシ”能力ですか‥。」

RI(凛):「そうだ。”海モグラ”には”トオシ”能力がある。なぜ”海モグラ”に”トオシ”能力があるのか?
そう。君の父”オキナ”も”デカい者”に吸収されてしまったのだ。」

ME(男)はガクリと膝を着く。何となく”海モグラ”から発せられるあたたかい”気”は父のぬくもりだったのか。でも、なぜ?いつ?父は”デカい者”へ吸収されたのだ?

RI(凛):「”ひかり苔の丘”は覚えているな。巡回員オキナは”ひかり苔の丘”の闘いの時に女王と名がつく者と闘ったと言う。
この時その女王が、友達を吸収し姿を変えた”海モグラ”だったのだ。
あの時”ひかり苔の丘”で女王と向き合った時に既に”オキナ”は闘うつもりはなかった。
だから任務者を緊急路へ避難させたのだ。
女王の心はまだ、”アイツラ”の支配下だった。それを”オキナ”は女王の身体に入る事で”アイツラ”から身体を取り返したんだ。
正に逆同調から、
”同調”させた。のだ。

巡回員グリーンは話を偽って君に伝えたが、”オキナ”は一本の大樹になったのでは無い。
友達を吸収した”海モグラ”と対峙し、”海モグラ”を”アイツラ”の一味から外す為にわざと”海モグラ”へ吸収され、身体を変えたのだ。」

ME(男):「なんという‥残酷さ。僕らを助けてくれた”海モグラ”が実は”オキナ”だった…。父は。父は。どうしてそこまでして…。」

RI(凛):「あなたの父は”女王”のままの”海モグラ”だと、これからも能力者達を傷つけてしまう。友達の、そんな姿を見るより自分が犠牲になり、”海モグラ”へ改変する方が耐えられる。と判断したのでしょう。現に今では”海モグラ”となり能力者達の後ろ盾になっています。」

ME(男):「うう‥父よ。なんて偉大な人だ‥(ME(男)は涙が止まらなかった)」

ピンク色の灯りは消え、RI(凛)は知らぬ間にいなくなり再び闇が訪れた。
暗闇から声がする。

ME(男)。ME(男)。しっかりしろ。私はこうしてちゃんと生きている。
この”グランドライン”の中でお前と一緒の世界に。それにこうして”友達”と一緒の身体だ。ふたり仲良くやってるよ。
いいな。
最後にこの”オキナ”と対決だ。
今のこの身体は”海モグラ”ではなく”オキナ”だ。
手加減なしだ。いくぞ!

ふたりは泣きながら身体をぶつけ合った。”オキナ”は容赦なくME(男)に攻撃をしかけた。
ME(男)はその時ハッとした。
なるほど。僕には攻撃という攻撃方法が無かった。これならイケる。
ME(男)は”オキナ”にその攻撃を仕掛けた。
”トオシ”で相手の弱点を見つけ、その場所ピンポイントに”気”の振動をぶつける。
そう。それは”オキナ”と”友達”の持つ能力の合わせ技だった。
闇の中で”オキナ”は、
「参った。これなら大丈夫だ。”アイツラ”と闘える。」とだけME(男)に告げ、闇の中に消えていった。

ME(男)は泣けるだけ泣き、涙を拭き、ぼやけた視界を拭い去ると目の前は大叔母のいる屋敷の滝と湖の描かれた襖の前の部屋だった。

大叔母が襖を開けノソノソと部屋に入ってくる。

大叔母:「よいよい。歳取れば涙も出ない。泣ける時に泣けば良い。よいよい。さぁ。風呂に入って夕飯食べてゆっくりしなさい。(大叔母はME(男)の肩をたたきながら囁く)」

ME(男)は今日一日で何年か分の経験をしたようなズッシリと重い、思い出深い一日であった。
生きるというのは生きる時間が長ければ長いほど残酷なものである。

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