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鈴を持つ者たちの音色  第三十三話 ”同調⑤”

WO(女)の闇:真っ暗闇の中はあまりの暗さで落ちる速度は感じなかった。
落ちる、というよりは浮遊している感覚だ。
これがもし、本当に”落ちている”としたら相当に深度がある穴か?どこか?という事になる。

暗すぎて目を開けていても視界には”黒”しか入ってこない。目を開けている意味がない。閉じる。

目を閉じてしばらくすると女性の”声”に呼ばれる。「WO(女)‥WO(女)…」
薄く目を見開くと身体の近くに数体クラゲが浮かんでいた。
柔らかい桜色を灯して自ら発光している。
数体のクラゲの一体が言う。「こちらに一緒に来てください」
言葉を発すると発光度合もチラチラと変化する。

WO(女)は姿勢を空間の中で直立に正し、導かれるようにふらふらと喋る発光体についていく。
まるで縁日の夜店(露店)に来たかのように灯りは2列になり真っ直ぐだ。その2列後方を偉そうな配列でWO(女)が連なる。
まるで大名行列だ。

先頭を誘導する喋る発光体が「お連れしました」と言うと、連動するように他の数体も一斉に「お連れしました」と連呼する。
WO(女)を誘導した発光体は数体だったが、たどり着いた場所には相当な数の仲間がいたようだ。

WO(女)は”匂い”を感知する能力に長けている。闇の中でも隠れたその”匂い”がわかる。

「お手合わせ願いますー。」
先頭を誘導していた発光体が言う。
それが合図のように無数の発光体が一斉に発光した。闇は私たちがいる部分を切り取るようにその一部を明るくした。
その明かりの中央に位置するように人影が現れた。その人影はネオンサインの様に闇の空間に紫色の四角形を引いていく。
人影が言う。「よし。これがステージよ。来なさい。」
人影は右手でクイッと手招きするのが見えた。
気が重いがWO(女)は誘われるがまま、紫色のネオンサインのステージ上へ移動した。

人影:「道着が似合うじゃないの。せっかく着てるんだから少しぐらい闘いましょう。」

人影をよく見ると綺麗な女の人だ。目元がキリッと鋭く唇は膨よかだ。長い髪を編みこんで束ねてある。声もチャーミングな印象だ。

WO(女):「格闘なんか苦手だけど、そうねぇ。やってみる。」

WO(女)は格闘漫画に興味があり読んだことがあった。とりあえずあんな感じでやってみる事にした。

「それでは始めまーす。よーい。はじめ。」
発光体が号令をかける。と同時にふたりはお互いをカウンターパンチ。
いきなりの強いダメージにふたりはよろける。
WO(女)は下半身で踏ん張り膝蹴りで跳んだ。
人影は交わすと同時に道着を掴んで背負い投げ。
しかしWO(女)は投げられる直前に自ら勢いをつけ”人影”の首に両脚を掛けぐるりと寝技に持ち込み腕十字固めへもっていく。
しかし、人影は柔らかい身体で寝技を回避する。
両者はそれぞれの間合いの間隔で再度向き合った。

人影:「センスあるじゃない。使わないのが勿体ないわ。」

WO(女):「何だか、あなたの動き。気が合うわ。まるで息のあったペアがダンスを踊るようだわ。」

WO(女)は不思議だった。ある程度の相手なら”匂い”で動きを先読みできる。人間の身体は体内からガスを出す。それが”匂い”になるのだが、”人影”には”匂い”が無い。動く一瞬の”匂い”を感知できない。”人影”は”生きて”はいない。これは?死人か?いや死の”匂い”もしない。WO(女)が今目の前で格闘している女性は一体何者?

間合いを詰め、次の一瞬を”読む”。が”読めない”
まずい。
冷や汗が出る。
焦るな。考えるな。無心になれ。
明かりが揺らめいた。”人影”が動いた。カウンターパンチだ。
気がつくとWO(女)のカウンターパンチは交わされ、間合いに入りこまれWO(女)のみぞおちにグッサリ”人影”の左パンチが突き込まれていた。

WO(女)はしばらく息ができない。「参りました。。」

”人影”はWO(女)の側に寄り言う。「私の名前は”ジュン”よ」と。。

ジュンは語る。

ジュン:「今あなたが見ている私は水龍が創り出した”念”の姿よ。水龍は以前に会った人物や見たり触れたりしたものを創造できる。そう。「神龍の宮」のようにね。それは分かる?」

WO(女)は頷く。(半信半疑のまま”人影”をみている)

ジュン:「あなたは私の事を人から亡くなった。と聞いているのかも知れない。けれども、今現在も、私は生きています。姿は変わり、あなたはまだ気付いていないけれど、私は生き、そして既にあなたと出会っている。それは本当よ。」

WO(女):「ああ。”ジュン”‥お母さん。あなたは本当に”ジュン”なの?信じられない。ここ”グランドライン”を見つけてくれた。人類の救世主ファーストペンギン。」

ジュン:「そう。ちょうどあなたは私の、このお腹の中にいた。私はファーストペンギンと呼ばれたけど違う。ひとりじゃない。あなたと一緒。ふたりでこの地”グランドライン”を見つけたのよ。ふたりで力を合わせてね。怖かったし勇気が必要だった。もし私ひとりだったら無理だった。ありがとう。」

WO(女):「”グランドライン”を見つけて直ぐに”ジュン”は陣痛が来てここ”グランドライン”の入り口で私が生まれた。”グランドライン”へ2番手の人が来た頃には私だけがそこへ置かれ”ジュン”のプロトスーツや臍の緒は残されていて”ジュン”の姿は見当たらなかった。どこを何日間も探しても見つからなかった。そして”ジュン”は海へ引き戻されたんだ。という結論に至った。」

ジュン:「…ごめんね。置き去りにして。私はあなたを産んで死にかけた。その時にね、”水龍”が現れたの。

(水龍:「生きたいか?生きたければ”私”と密約をかわせ。」)

と。水龍は言った。
私は生まれたばかりのあなたを見た。
あなたはスヤスヤと眠っていた。天使の様にね。あなたが愛おしかった。どうしても生きねば。とその時決心し、思った。そして密約をかわした。命を得る為に。」

WO(女):「どんな密約を?」

ジュン:「現世と来世を行き来する密約よ。」

WO(女):「現世と‥来世‥そんなことが、できるの?」

ジュン:「信じられないのは分かるわ。実際私もそうだった。私はあなたを産んで早速、来世に飛ばされたわ。年号は【太皇13年】そして人類は地上で生活している場所へと。」

WO(女):「地上で?人類は再び地上で生活できるの?」

ジュン:「そう。再び所じゃ無い。人類は間違いを繰り返す。私が知っている来世は今よりも生活は地味よ。原点へかえるの。皆原始的な生活をしている。そして、何より変わらないのは、争いは絶えずある。ということ。おそらく人類は地上で暮らしても地上を破壊する。それを繰り返し生きていく。」

WO(女):「なんて。不甲斐なく惨めなの。ねぇ”ジュン”なぜ私にそこまで伝えてくれるの?これは水龍との内密情報なのでは?」

ジュン:「あなたには言っておかなければならない。現世の私はもう年齢が行き過ぎている。そのうち順番がまわる。そう。あなたにね。」

ボーゥとジュンの姿が薄くなり、辺りは何も無かったかのように真っ暗闇に戻った。
「パチン!」

ブレーカーが落ちるように
自分自身が機能停止になるように
電子機器をコンセントから外すように
WO(女)の思考は停止した。

気がつくと大叔母が視野いっぱいに顔を覗き込んでいた。大叔母の部屋だ。WO(女)は布団に横になっている。

大叔母:「かなりきつい”闇”だったろう。頭を整理したくとも、お前に言っておかなきゃならない。」

WO(女):「わかってるわ。あなたは”ジュン”。。そうなのね?」

ふたりはホロホロと涙を流して抱き合った。
現世でようやく会えたのだ。
WO(女)も大叔母もずっとこの気持ちを抱えて生きてきた。
遅い親子の再会であった。




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